投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「迷子のジャックオーランタンを預かっています」
【ファンタジー その他小説】

「迷子のジャックオーランタンを預かっています」の最初へ 「迷子のジャックオーランタンを預かっています」 1 「迷子のジャックオーランタンを預かっています」 3 「迷子のジャックオーランタンを預かっています」の最後へ

1話-2


その日は、どんよりと鈍色の空が広がっていた。
紅葉していた木々もその色に近づいていて、秋もそろそろ終わりに近い。
日が沈んだ後の、夜長は少し肌寒さを覚える。

すっかり暗くなって、小さな街灯が立ち並ぶ住宅街の帰り道を、私は一人で歩いていた。
私の名前は、椎名翼。
大手お菓子メーカーの企画部に配属されて3年目の、社会人だ。
いくつも案件を抱え、もう新人とも呼べない立場に立たされている。
今日のように、連日終電帰りというのも、すっかり慣れたものだ。
はたして、それが良い事なのかは分からないけど。

ともかく、翌日も仕事があるのは変わらないのだ。
少しでも早く、そして一秒でも長く、自分の癒しの休息が欲しい。

そう思って、私は歩くスピードを速め、住宅街を抜けようと急いだのは、まだ記憶に新しい。


だが、どうだろう。
どこか冷たい風が辺りを吹き抜けたかと思った次の瞬間。
私の目の前に異様な光景が見えた。

いや、本当に、目の前。
なんだったら近すぎて何がなんだか全く分からない。

え。これ何。


「近い!!」

そう叫んで、両手を使って全力で顔の目の前の物を叩き落とした。
バアンと強い音がして、ゴロゴロと転がっていった。
転がった何かは、住宅街の灰色の壁にゴツンとぶつかると、そこで動きを止めた。
ピタリと動かなくなったそれは、どす黒い色の、大きなカブのような形をした『何か』だった。

「・・なにこれ」
「っああああああ!!!」


カブに視線を向けていると、叫び声が辺りに響く。
本当に、叫び声。工事現場の騒音レベルの、耳につーーんとするような、そんな感じだ。
おもわず耳を塞いでしまう。
一体何だと思って、辺りを見回しても、何も無いし、誰もいない。

「・・え、気のせい?気のせいなの?」

ここまで五月蝿い思いをさせられて、気のせいなのかと思った。
これは、夢か幻想か。
そう思った私は、再び、どす黒い色のカブに視線を向けた。
すると、そこには、先ほどは居なかった『変なカブに寄り添う変な人』が目に飛び込んできた。


真っ黒なコートを着て、オレンジの長髪から見える赤い目。
・・・・少し涙ぐんでる。


「・・・」


普通なら、謝罪なりなんなりと声を掛けるところだが、足が地面に縫い付けられたかのように動こうとしない。
誰かに連絡を取りたいと思うのに、指が、腕が金縛りにあったかのように強張ってしまったまま動かせない。
姿を一瞬でも視界に入れて、気配をピリピリと感じて、察する。

―『この人』は、人間じゃないと。


逃げたい。


そう思うのに、足も、腕も、何も動かない。

「お前・・・」


ゆらりと立ち上がった『そいつ』は、私の目の前に立った。
おそらく190cmはあるだろう身長は、ゆうに私を越していて、上から見下ろされる形になる。
余計に圧を感じてしまって、何もできない。
私の顔に、『そいつ』が詰め寄ってくる。


あぁ、私はここで死ぬんだ。死にたくないよ、だってまだ25歳だよ。
でもどうせ死ぬなら、今日先輩から貰ったばかりのかぼちゃプリンを食べて、飼い猫のニャミを存分にもふもふさせて貰って、先輩に好きですって伝えたかったな。

そんな冷静な考えと、邪な切ない願望が出てきた。
『そいつ』の腕が伸ばされたのを感じて、私は覚悟した。

した、はずだった。
が、『そいつ』の腕は私の肩を掴んで、私の身体を激しく揺らした。


「お前っ!よくもランタン壊したな!!あれじゃ徘徊出来ないだろ!どうしてくれるんだよ!悪魔探さなきゃいけないんだぞ!」
「・・は!?ら、ランタン!?」


頭の上あたりから飛んできた怒号に、私は反応が遅れてしまった。
言葉を聞き返すと、『そいつ』は私の肩から手を離して、その場に大きな身体を丸めてうずくまった。
え、殺されるんじゃないの、私。


「嘘だろー、どーすんだよー。これじゃ夜歩けねえよー、真っ暗なんて怖ぇんだよー」
「・・・・・」


真っ黒な服着たやつが何を言う。
というか、人間じゃないやつが何を言う。

そんな言葉が頭を巡ったが、言葉にはしなかった。
言葉にした瞬間、取り留めた命が危険に晒されると思ったからだ。
だが、『そいつ』は私のことなんか忘れたように、ブツブツと独り言を唱えだした。
終いにはぐすぐすと泣き始めた。


―え、なにこいつ。



「・・あ、あの」


声なんてかけずに今すぐ逃げればいいものを、私はバカなことに放っておけなくて声をかけてしまった。
内心、もうひとりの自分が私の頭をぶっ叩いた音がした。


「だ、大丈夫、ですか・・?」




「迷子のジャックオーランタンを預かっています」の最初へ 「迷子のジャックオーランタンを預かっています」 1 「迷子のジャックオーランタンを預かっています」 3 「迷子のジャックオーランタンを預かっています」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前