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スイッチ、オン 〜 The actress on through the lens
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第十章 覚醒・もう一人の私-1

 「どういうことなんだ、アーちゃん。なんでそんなヤツと…。」
 「どうもこうもありませんよぉ。ずっと前からルリアさんの初めてを狙ってたのにぃ、横っちょから割り込んできたのはあなたの方ですよぉ。というわけで、僕がルリアさんの初めてを頂きましたぁ。いやあ、なかなか美味しかったなぁ。初めてゆえにいろいろぎこちないところもあったけどぉ、それがまたいい味を出していてぇ。ねえ、ルリアさん。」
 「やめて、シンジくん。この人には言わない約束だったじゃない。」
 ショッピングモールで偶然鉢合わせした幼馴染のアーちゃん、本名ルリアは、見知らぬ男と一緒だった。小太りでメガネが顔に埋まっているいかにもアブなそうなやつだ。
 アーちゃんと数ヶ月前に再会し、交流を深めていく過程で、彼女がまだ初めてを守っていることを俺は自分の指で確かめた。その後も二人は順調につきあってきたというのに。なぜこんなやつにあげてしまったのか。
 「なぜあげちゃったの?って思ってるでしょぉ。」
 「ああ、その通りだ。」
 「くやしい?」
 「くやしいに決まってるだろ。」
 「くやしいらしいですよ、こんなことしたくせにぃ。」
 シンジと呼ばれた男はショルダーバッグから大きなタブレット端末を引っ張り出し、動画の再生を始めた。そこに映し出されたものを見て、俺は凍りつき、体がブル、っと震えた。
 「これってなんだか分かりますよねぇ。お店の同僚のナツミさんにこんな恥ずかしいことさせてる。」
 アーちゃんの方を見た。黙って俯いている。
 「それから、こんなのもぉ。店長のサユリさんにいきなりキスして店の床に押し倒して愛撫し、最後には…」
 「やめて、やめてったら!」
 「何言ってるんですかぁ、ルリアさん。裏切り者に罪を認めさせなきゃ。さて、次ぃ。」
 ん?姉さんじゃないか。随分酔っ払ってるけど。
 『さてぇ、インタビューを始めましょう。あなたの初めての相手はどんな人ですかぁ?』
 『弟よ、二つ下の。失恋でヤケになって誘ったら、乗ってきた。文字通り、乗ってきた。きゃははは!』
 『その後弟さんとはぁ?』
 『ヤったよ。ダンナに浮気されて実家に帰って泣いてたら、慰めてくれたの、カラダでね。それ以来何度もよ。きゃははは!よっぽど私のカラダが気に入ったのね、実の姉なのに。』
 『以上、現場からの中継でしたぁ。』
 「そしてぇ、なかなかいい思いをしてましたねぇ。」
 ユリカさんとハルミさんに責め立てられてヨダレを垂らしている俺だ。
 「最新作はこれぇ。」
 ハルミさんの実家の病院で、看護師のミヤタさんを後ろから…。
 「どうやって入手したんだ、こんなもの。」
 「簡単ですよぉ。この頃、そこら中に防犯カメラがあるでしょ?大抵はネットに繋がってる。便利ですよねぇ、離れたところから監視できるんだからぁ。でもねぇ、セキュリティがなってない。せつないぐらいユルユルなんですぅ。」
 「パスワードかかってるだろ。」
 「んー、例えばスマホ買った時とかぁ、初期パスワードが決まってますよねぇ、それって例えば何番ですかぁ。」
 「0000とか1234、かな。」
 「そう。で、そのまま変更せずに使ってる人が多いんですよぉ。ある統計によるとぉ、約八割がそのまんま。防犯カメラも同じ。業者から納品された時のバレバレのパスワードを使ってるのがほとんど。ね、わかるでしょぉ。」
 「店のカメラはネットに繋がってないぞ。」
 「でも、パソコンはネット繋がってるでしょぉ。」
 「いや、カメラとパソコンは繋がってない。」
 「カメラの録画装置の電源とパソコンの電源、同じコンセントに刺さってますよねぇ?」
 「そうだけど?」
 「電力線通信、って聞いたこと無いですかぁ?」
 「LANケーブルの代わりに家の中の電気の線を使って通信するやつ、かな。」
 「正解。最初から家の中にケーブルが張ってあるからぁ、手軽にLANが構築出来る。ま、今はWifiが普及したから見なくなりましたけどぉ。でねぇ、実は何も特別なことをしなくても微弱ながら信号は流れてるんですぅ。そしてぇ、コンセントの距離が近いほどぉ信号は強い。後はパソコン経由でデータ取り放題ぃ。」
 「そんなことが…。」
 「出来るんですよぉ、僕には。というわけでぇ、世界中のカメラが僕の目になるぅ。」
 「姉さんは?姉さんはどうやって。」
 「ご実家の前を泣きながら歩いてきたのを捕まえてぇ、ジャンジャン飲ませただけですよぉ。あ、お姉さんには何もしてませんからぁ、ご安心を。それとも、何かしてあげた方がよかったですかぁ?」
 俺はもう、何も言えなくなっていた。確かに俺は今見せられたとおりのことをした。弁解の余地はない。でも、アーちゃんには知られたくなかった。そのせいで、彼女の心だけでなく、カラダまで傷つけてしまった。
 「アーちゃん。謝らないよ、そんなことしたって許されないのは分かってるから。」
 「うん…。あ、でもね、」
 「あれえ、それ言っちゃっていいんですか?まあ、言った方が彼の罪悪感が多少は軽くなるでしょうけどぉ。」
 「どういう事だ。」
 「ルリアさんを頂いちゃったのは、僕だけじゃ…」
 「やめて…。」
 「…そうか、そうだよね、俺だけいろんなオンナとなんてね。」
 「違うの!そうじゃなくて…。」
 「おい、まさかその動画をネットにバラまくとかいって脅したんじゃないだろうな。」
 「違いますよぉ。ねぇ、ルリアさん。」
 アーちゃんは声も出せずに唇を噛んでボロボロと涙を流している。


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