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優しい椅子
【その他 官能小説】

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優しい椅子-2

 「君は病気になったことはあるかい?」
 「うーん、あんまりないんですけど、たまに風邪ひいたりお腹痛くなったりはしますよ。」
 「怪我は?」
 「あ、それはしょっちゅうです。今もここに…。」
 彼女は、膝上丈のスカートを少し捲って左足の太腿の内側を見せた。切り傷みたいなものがある。
 「痛そうだね、どうしたの?それ。」
 「あ、あー、あの、ハサミで失敗して…。」
 「何を失敗したの?」
 「いや、ちょっと、たいしたことでは…。」
 「言いにくいことをしていてハサミで切っちゃった?」
 「はい、まあ…。」
 「そう?気を付けようね、せっかく綺麗な肌してるんだから。」
 「はい!」
 あゆかは肌を褒められ、体を心配されてうれしいようだ。
 「さて。怪我や病気って、回復可能なものばかりとは限らないよね。どんなに注意深く生きていても、どうしても体は様々なダメージを受けていく。そうでなくても、徐々に歳をとり、やがて寿命を迎える。」
 「ええ。」
 「でも生物は生き続けようとする。さあ、どうしよう。」
 また目が泳いでいる。
 「機械の体を手に入れる!」
 「…。」
 「ごめんなさい…。」
 「いや、悪くない答えだよ。実際、義手義足の類はものすごい速度で進化している。いずれそれが出来る未来が来るかもしれないね。脳をどうするのかという大きな問題があるにしても。でも、少なくとも現時点で体の完全機械化は不可能。だよね?」
 あゆかはコクン、とうなずいた。
 「だけど、君の発想はいいところまで行ってる。」
 「?」
 「乗り換えればいいんだよ、体を。」」
 「車みたいに?」
 「大正解。」
 パーっと屈託ない笑顔が広がった。
 「一つの個体がいつまでも生き続けることは出来ない。一つの車がいつまでも走り続けることは出来ないのと同じで。どんどん傷んでいくからね。ならば、次の世代に交代すればいい。新しい体になればいい。それが生物にのみ備わっている生殖という能力だ。」
 「生殖…。」
 「悠里くん、恋をしたことは?」
 「え?あ、あ、あ、あります、けど…。」
 ん?ずいぶん過敏な反応だな。まあ、恥ずかしい年頃か、こういう話題は。
 「じゃ、質問。恋って何?」
 また泳ぐ目。
 「えと、えと、あの…。好きになって、結ばれて、一緒にいたいって思う気持ちです。」
 予想通りの答えだ。
 「性欲だよ、恋は。」
 「せ…。」
 「身も蓋もないこと言うけど、それが真実なんだ。生殖をしようとする本能、すなわち性欲が恋の正体さ。」
 「はあ…。」
 あゆかのスタイラスは宙を泳いでいる。なんと書けばいいのか分からないのだ。
 「世代交代し、子孫を残すことで生き続けようとする生物の性質。それを実現するため生殖へと向かわせる仕掛け。”恋”なんて呼んで美化しているけれども、現実はもっとナマナマしいんだ。たとえばね。」
 俺はモニタに今人気の男性アイドルを映し出した。
 「どう?」
 「どう…って。」
 「君、彼が好きだって言ってたよね、この画像を見てトキメキを感じる?」
 「え、ええ、そうですね。」
 「それは恋?」
 「いえいえ、ただの憧れですよ。」
 「じゃ、恋の相手は?」
 「そそそそそそそそ、それは…。」
 予想以上の動揺だ。何だろう。まあいい。
 「やっぱり現実に身近にいる人ですよ…。」
 「そう?じゃ、こんなものを見ても恋すなわち性欲を感じない、っと。」
 モニタにボクサーブリーフを穿いた男の下半身が映し出された。彼のパンツはボコっと膨れ上がっている。
 「あ、あ、あ…。」
 「視線をそらさないで見なさい。これは生物学なんだから。」
 「あ、はい、先生。」
 あゆかは頑張ってガン見している…ようにも見えるが、本当は見たいのだ。俺の前にあるモニタの一つに、その証拠がはっきりと映っている。
 「じゃ、これはどうかな。」
 ゴク、っとつばを飲み込む音が聞こえた。
 「え?これ…って、女の子?」
 女の子のスカートの中が写っている。見た目には四つん這いだが、スカートは手前向きに垂れている。つまり、下から映した映像だ。
 「立ち上がってごらん。」
 「はい…。」
 言われた通りに立ち上がったあゆかは、画面を見てそのままフリーズした。
 「え!この制服、私…。」
 「そう、君だよ。」
 あゆかは椅子から離れようとした。
 「避けないで。そのままもう一度座りなさい。」
 「…。」
 彼女はペタンと座った。モニタには再び彼女のスカートの中が大きく映し出された。それはもちろん、椅子の下の床に仕込んだカメラの映像だ。座面が透明なので丸見えになっている。
 「ほら、見てごらん、ここ。」
 パンティの中央部分をポインターで示した。
 「湿ってるだろ?」
 あゆかは俯いてギュっと足を閉じた。もちろん、そんなことで隠せはしない。
 特別に高く細く盛り上げてある座面中央があゆかの股間に喰い込んでいるので、中が透けて見えそうなほどにそこが湿っているのがはっきり分かる。
 「どう?どこの誰とも知れない男を見てそんなことになってるだろ?恋の相手ではないはずなのに、生殖の候補として意識してしまっている。」
 「違います、恋と性欲は同じじゃありません。」
 「そうかな。恋人が出来たら必ずすることは何?」
 あゆかは上目づかいに俺を見ながらモジモジしている。
 「え、エッチ、ですか?」
 「だよね。エッチをしない交際相手を恋人とはふつう言わない。恋は性欲、性欲は生殖のために生物が持つ衝動。」
 「…。」
 あゆかは口をパクパクさせるばかりで何も言えないでいる。


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