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目覚めの失恋
【熟女/人妻 官能小説】

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今日はクリニックのパートは休みだったので少し遠出してファストファッションの大型店の集まる街まで出掛けていた。学生や独身の時はファッションのセンスには少し拘りがあり、お金をかけていた時期もあったが、娘が生まれてからは拘りが薄くなり、流行は気にしつつもシンプルでお金のかからないものになっていた。しかし少し前に久しぶりに見たファッション誌に刺激を受けて、本来のオシャレ心が騒いだのか流行のスタイルをしっかりイメージして買い物に向かったのだった。そのようになった原因はわかっているが、心の中では否定して抗ってみる。10日程前の事だ。クリニックの最寄りの駅に着いた時、突然の雨に立ち尽くし、50m先のコンビニまで濡れて行くしかないと決心して、走り出そうとした時に20代後半ぐらいのスーツ姿の青年に呼び止められた。青年はビニール傘を差し出しながら、

「折り畳みあるんで、使ってください。」

と優しい微笑みで傘を手渡して、そそくさと去っていった。私の心は軽い電流のような衝撃と微笑みの残像に支配されてクリニックまで歩いた記憶がない程だった。そして次のパートの日に同じ電車の同じ車両にその青年が乗っていることに気付いた。気付いたというのは嘘かも知れない。周りに気付かれないように必死に車内を見回して探したというのが正しいと思う。見つけた瞬間、何年ぶりかに心がいっぱいになっていく気がしていた。その次のパートの時に少し改札出口で待って、青年に傘を返した。中高一貫の女学校育ちの私は大学である程度慣らされたとは言え、男性と会話する時は心拍数が上がり顔が少し紅潮する。

「別に返してもらわなくても良かったんですが、丁寧にすいません。」

「ずぶ濡れになるところだったんで凄く助かりました。あの…、」

何かもう一言話しかけようとした時に後ろから来た若いスタイリッシュなスーツ姿の女性が青年の肩を叩きながら、おはようと通り過ぎて行ったので、青年は私に会釈をして立ち去り、その女性を追いかけていった。どうやら同僚らしいが、女性からの‟ナニ朝から主婦ナンパしてんの?”が遠くから微かに耳に入り、心拍数が落ち着いた。ただ、同時に同性の若い子から一目で主婦と判断された苛立ちと己磨きを疎かにしていた恥ずかしさが相まって今までとは違うモヤモヤを抱えてパート時間を過ごした。パートの帰りにクリニックの待合いにあるファッション誌の先月号を借りて帰ったのは心のモヤモヤに少し火が点いたからであるが、そろそろ育児にも余裕が出てきたからと自分への言い訳を常に心で唱えるのであった。


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