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「淫らにひらく時」
【若奥さん 官能小説】

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「淫らにひらく時」-8

「このモデルが誰か知りたいわ。」

「どなたかお知り合いに似てましたか?」

「どうせ秘密なんでしょ?」

じっと女の目を眺める。この一枚で今まで観た数々の印象がかき消される。

「学生のモデルですよ。ほら、あの絵の彼女。」

「恋人?」

「いえ、彼女は美学生ですが立派なモデルでもあります。」

「ふぅん、そうなんだ。こんなポーズって、よほど親密なのかと思ったわ。」

「あぁ緊縛ですか。これはまあ、いわゆる創作ですよ。実際に彼女を縛ったわけじゃない。」

ここにあるヌードは実際にモデルを描いたものもあるけど、ほとんどは創作だと言った。
同じような顔の女が何枚も描かれていて、私はこの人はその女を愛しているのだと感じたが実在してないのだという。
絵心も長く描いていると、イメージの中に何人かの女を創り上げてしまって、それは誰かに似ているようでもあり誰でもない。
私には絵心というものがないけど、そこは何か似たような共感を覚えた。
誰でもない誰かをいつも探しているかのように思える。
それは案外、セックスの相手ではなく誰でもない、もうひとりの自分なのかも知れない。

「緊縛画などに興味がありますか?」

その言葉にドキっとした。不意に心を見透かされたような気がした。
まだ高校生だった頃。
興味本位で開いた女性週刊誌のとじ込みで観た数枚の絵を思い出した。
全身に入れ墨された女が緊縛されて木に吊るされているのだ。
両の乳首は糸で結ばれ、木の枝に引っ掛けられている。
もがけばもがくほどに結ばれた乳首が引っ張られて、与えらるのは苦痛か快楽か・・・
女の表情は力なく絶望的でもあり、あるいは恍惚としているようにも伺えた。
それを描いたのは女性の画家だと書いてあった。

「もう、何年も前の事ですがこんなことで少しは需要もあったんですよ。」

縛られた裸の女の絵を何枚か見せてくれた。
乳首や陰毛、それに男女の性器などはもちろん、その表情が異様なほどリアルで一枚の絵に物語を感じる。

「誰かの依頼を受けて描くとか?」

「いえ、主にSM雑誌とか、週刊誌に連載された官能小説の挿絵ですよ。」

「これって、売れると思うなあ・・・どんな人が買うのか知らないけど。」

胸と腕。それに手首と足首を縛られた女が柱に括りつけられていた。
女の表情は目の色に生気がなく、口を半開きに何かを虚ろに見つめている。
縛りつけられた四肢はそれでいて、力なく緩んでいる。
苦痛や恐怖に麻痺してしまった表情だ。怠惰な快楽にすら感じられる。


肌に食い込んだ縄はその柔らかさと儚さを表していた。
恐怖に苦痛に顔を歪める女。泣いてる女、悦んでる女。
同じような表情で、同じような顔で、どうしてこんなに違う印象を表すことができるのだろうか。
浣腸されてる女もいた。


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