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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-5

「先ず、夕子を、それらしい格好に仕立てる手筈をお願いします。後は、我々を街に送り届けてから、診療所に向かって下さい。」
「わ、判りました!」

 指示に大きく頷き、食堂を出て行こうとする香山を、伝一郎は呼び止めた。

「焦る気持ちは判りますが、先ずは朝食と行きましょう。女給さん達を、呼んで来て下さい。」
「ああっ!す、すいません。うっかりしておりした。」

 慌てて女給達の部屋に向かう香山の後ろ姿を、伝一郎は侮蔑の笑みで見送った。



 遅い朝食を済ませた伝一郎だが、予定の午後まで暫く余裕が有る。ひたすら待つ身と云う事で、自室で待つ事にした。

「ふふ……あの香山の顔ったら。」

 ベッドで仰向けに為り、先程迄の出来事を頭の中で思い返すと、思わず笑みが浮かんだ。
 それは香山と面突き合わせて、朝食を摂っていた時の事だ。広い食堂の中、二人が発する咀嚼音や食器同士が当たる音以外、他には何ら音がしない。そんな状況に堪り兼ねた様に、香山は徐に口を開いた。

「ど、どうにも私は、いざと云う時の胆力が足りないのか、先程も慌ててしまって、何も考えられ無く為ってしまって。
 その点、流石は伝一郎様。親方様の御嫡子らしく、肝が座っておいでだ。」

 己を卑下して相手を持ち上げるとは、相手にすれば、耳がこそばゆく為る話だが、おべっかに気を良くする程、伝一郎は単純で無かった。

「そんな事は無いでしょう。香山さんの方が、有る意味、僕以上に肝が座ってると思いますよ。」

 意味深な科白(せりふ)だが、耳にした香山は直ぐに理解出来なかったのか、惚けた顔を伝一郎の方に向けた。

「ど、どういう……。」
「長年、支えて来た主人の令閨(れいけい)と不貞を為出(しで)かす方が、余程、肝が座ってると云う意味ですよ。」

 香山の表情が、凍り付く。伝一郎は卓台に手を掛けて身を乗り出すと、声を潜めて言葉を続けた。

「──僕の部屋から目と鼻の先に有るのに、人目も憚らずに艶声を喚けば、見付けてくれと云ってる様な物でしょう。」

 大きく見開いた香山の瞳は小刻みに揺れ、明らかに動揺を表していた。

「わ、私は……ただ、その……。」
「下手な申し開きは不要です。義母さまに播種(はんしゅ)する様な真似は、金輪際、辞めて頂けますよね。
 然もないと、此処を、いや、此の街から出て行く事に為りますよ。」

 詰る間中、伝一郎は眼に力を込めて睨み続ける。香山は固く握った両手を膝に置き、俯いたまゝ視線を合わせ様ともせず、一人、脂汗をかいていた。

「──僕は盆明け迄、居るつもりですから、義母さまの面倒は僕が見ますよ。だから貴方は、夜に為ったら僕を病院に連れて行って下さい。」
「わ、判りました……。」
「では、宜しく。」

 勝負は呆気なく着いてしまった。席を立ち、香山の顔を見下す伝一郎。土気色の顔は恐怖で戦き、脂汗で光っていた。




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