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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-25

「──た、竪坑に御送りして上の事務所に出向くと、し、暫くして邸から連絡が入りまして、慌てて邸に戻ると女給達が騒いでおりまして……まさか又、可笑しく為られるとは。」

 それでも、何とか状況を伝えねばと努めるのは、執事の責務を果たさんとする所以か。

「それで?今は何処に。」
「はい。朝の内に街外れの診療所へお連れし、此方へ向かう途中、以前、入院なされた病院に転院と相成りまして。」

 報告に聞き入っていた伝衛門が、再び、怒りの咆哮を挙げた。

「貴様、彼の時、昼間の目立つ間は連れ行くなと、有れ程に云うた事を忘れてしもうたんか!」

 厳しい叱責に身を竦(すく)ませ乍らも、香山は報告を続ける。

「そ、そちらは大丈夫です!伝一郎様の御手引きのお蔭で、記者達とは遭遇しとりませんから。」
「何?何故、貴子の件に伝一郎が関わっとるんだ。有り体に話せ!」

 此処で漸く、平静さを取り戻した伝衛門に、香山は事の顛末を詳(つまび)らかにした。

「──夕子を連れて散策すると仰有るばかりで、幾ら御止めしても、頑として聞き入れて下さら無かったのです。」
「うむ──。相判った。」

 報告を終えた香山は、恐る々、伝衛門の表情を窺った。息子の勝手な振る舞いに怒り心頭に発している筈だと、思ったからだ。
 ところが、その顔は予想に反して平然その物で有る。仏頂面は何時もの事だが、その軽く腕組みをして俯く様は、何やら思案に暮れているではないか──。その姿を見た香山の中で、強い憤りが痼(しこり)と為って存在を顕(あらわ)にした。
 日頃より、伝衛門の怒りの矛先が自分に向けられる毎に、香山の心はささくれ立ち、蟠(わだかま)りは澱の如く、心の奥底に積み重なる。
 軈(やが)て、蓄積した澱が許容値を越えて溢れ出すと、彼は感情の制馭(せいぎょ)さえ儘成らなくなり、決壊した感情は激流と為って、貴子へと流れ込んで行った。

 抑圧され続けた蟠りは欲望の深淵へと化け、その全てを子爵の娘で伝衛門の細君で有る貴子の、豊満且つ熟れた肉体を嬲(なぶ)り尽くす事でのみ、その小さな虚栄心を充たし、再び、平静を取り戻していたのだ。
 だが、それも貴子の入院に伴い、関係は終りを迎えた。その上、突如として現れた伝一郎の存在は、香山にとって、伝衛門以上の脅威に映っていた。
 だからと云って、自分では如何様にも出来る筈も無い。そればかりか、逆に、二度と貴子に近付くなと強請(きょうはく)される始末。頑是(がんぜ)無い子供とばかり思っていた者が、突如として自分に牙を剥き、邸から追放せしめんと仕向けて来た事実は、香山を大いに慌てさせたのだ。

 幾ら、伝一郎の“大いなる勘違い”だとしても、香山の立場は、今や風前の灯火で有る事に変わりは無く、此のまゝでは何(いず)れ、不届き者として排除されるのは必至で有る。
 香山は、僅かな時間で自己保身の一計を練り上げ、伝衛門を焚き付け様と試みたものゝ、たった今、不首尾に終わった事に由って更に怒りは増して行く──。何故なら彼自身、既に、熟れた肉体に取り憑かれてしまっていたからだ。

「親方様。実は……わ、私は、伝一郎様より強請を受けたのです……。」

 香山は、大恩有る伝衛門の不利益にしか為らない謀(はかりごと)を、実行に移した。即ち、自己防御を働かせて、やられる前に伝一郎を貶め、排除至らしめんと決断したので有る。


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