投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

「ガラパゴス・ファミリー」の最初へ 「ガラパゴス・ファミリー」 83 「ガラパゴス・ファミリー」 85 「ガラパゴス・ファミリー」の最後へ

前章(四)〜惜別T〜-1

 夕子が部屋を後にした後、伝一郎は階下の風呂場へと赴き、寝汗で不快な身体にシャワーを浴びせた。
 産炭場の動力源で有る電気を高圧蒸気に因って発電する事から、電気同様、蒸気の一部を邸(やしき)へ引き入れた事により、給湯や暖房の熱源として昼夜を問わず利用出来る事で、家人は元より、使用人達も多いに重宝していた。
 斯様(かよう)な設備は、寄宿学校は言うに及ばず、邸以外で直に触れる事の無かった伝一郎にすれば、西洋の生活様式を実践する事で、好奇心を大いに刺激され、新鮮な感覚を楽しんでいた。

「ふぅ……。」

 如雨露(じょうろ)に似た散水口から降り注ぐ熱い飛沫──。細かな水滴が齎(もた)らす感触は打たせ湯等とは似て非なる物で、此の心地良さは漸近、体が解(ほぐ)れる事で、心穏やかに為って行く。
 此れから成そうとする事を意識するだけで、思わず心が逸ってしまう。が、平静さを欠いては仕損じる公算を高めてしまう上、逆に、秩序を乱そうとした者として、自分に対する奉公人達の印象を、損ねてしまい兼ねない。
 明境止水とは行かぬ迄も、努めて平静に当たる事が、須要だと心に言い利かせる。

 香山と相対する──。下男とは云え、伝一郎より三十は歳上なだけで無く、執事として邸を取り仕切っている事から、父、伝衛門への覚えは殊の外、好い筈で有る。
 その様な者に、不貞で人外な行為を詰(なじ)り、且つ、同じ過ちを繰り返さぬ様、鎖に繋ぎ止めるのは安易に非ず、痴情の縺れで悶着を起こした女(おなご)を相手にするのとは勝手が違う筈だと、伝一郎は思った。
 そこで、如何様な手立てが上首尾を齋らすものかと、是(ここ)、数日に渡って研鑽を重ねたが、結局、妙案を見出す迄には至らなかった。

──下手な考え休むに似たり。彼や是やと思案の上に答を捻り出しても、その策が最善とは限らない……。

 古(いにしえ)より伝承された、様々な兵法に思いを馳せながら、結局、正面突破の出たとこ勝負で行こうと、結論付けた次第で有る。

「さて、戦の前に、先ずは腹拵(ごしら)えだな!」

 胸中の暗澹(あんたん)足る靄(もや)が晴れた途端、伝一郎は猛烈な空腹感を覚えた。
 思えば、昨夜の夕食から明け方まで、貴子との睦事(むつごと)で体力を使い詰めだった上に、その最中、冷めた白湯で喉を潤した切り、何ら口にしていない──。
そう思うと余計、腹の虫が騒ぎ出した。
 空腹を満たそうと矢も盾も堪まらず、烏の行水宜しく、さっさとシャワーを切り上げると、ネル綿布なる欧州伝来の吸水に富んだ生地の手拭いで乱暴に身体を拭き上げ、身支度も早々に、廊下へ飛び出した。

「おや?」

 突き当たりを左に折れた所で、伝一郎は歩を止めた。廊下の向こう、玄関ホールから食堂へと渡って行く途中で、香山の姿が見えたからだ。
 普段なら、朝、伝衛門の運転手として産炭場へ送り届けた後、その傍らに聳(そび)え立つ竪坑櫓(たてこうやぐら)の上に築かれた事務所と、巻き上げ機やボイラー等の各種設備を遠隔から操作、監視する機械室が併設された社屋の中で、伝衛門の動向に合わせて午前中は待機している筈なのに、どうした訳か、今日に限って早々に屋敷へ戻って来たので有る。
 伝一郎で無くとも「何か、有ったのでは?」と、訝しがるのは当然だ。

(火急な用事でも出来たか?……だったら、渡りに船と言うものだが。)

 伝一郎は、此の状況を千載一遇の好機到来と見るや、自らを奮い立たせ、力強い足取りで食堂へと向かった。
 


「ガラパゴス・ファミリー」の最初へ 「ガラパゴス・ファミリー」 83 「ガラパゴス・ファミリー」 85 「ガラパゴス・ファミリー」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前