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黒豹に囚われた少女
【ファンタジー 官能小説】

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エドガルドの欲しいもの-1

***

「――俺が二つの輪を持っていたのは、そういう経緯だ」

 そうエドガルドが締めくくると、リュネットは思わず身震いした。

「じゃ、じゃあ……エドはお城を出た後で、ここを探し当てて住み始めたのね?」

 エドガルドが同族から、どことなく敬遠されているのはそのせいかと納得し確認すると、彼はやや困ったような顔で頷いた。

「それがな……ここに来たのは偶然の成り行きだった」

「偶然?」

「王女に首輪の外し方を教えたレンシア国王は、俺を引き抜きたくて王女を唆したらしい。城を出るとすぐに俺を探し当て、密偵にならないかと誘われた。困った部分もあるが一目置ける相手には違いないから、俺は陛下に雇われる事にした」

「……へぇ」

 あまり一般的でない職業名にどう反応したものか解らず、曖昧に相槌を打った。

「そしてこの近くまで仕事で来た時に、買い出しに出かけた豹人達が、人狼の集団に襲われていたのに出くわしたんだ。ベラが仲間を逃がしていたが、彼女は大怪我をして歩けなくなり、ここへ送り届けるしかなかった。だが……ここの連中は聖地を守る為に必死だからな」

 エドガルドがため息をついた。

「俺が同族とはいえ、人間の密偵をしていると知られれば、ベラまで災厄の種を連れてきたと、とばっちりを受ける。それで俺は、あの城の泉から生まれて囚われたが、上手く逃げ出して隠れ暮らしていたという事にした。ベラだけには真実を全て話しているが」

「そ、そうだったの……」

 もはや驚きが連続しすぎて、リュネットは小声で呟いた。

「ああ。これで、俺が二つの輪を所有して外し方も知っていた理由は、納得しただろう」

 エドガルドが再び固い表情に戻り、リュネットへ向き直る。

「話を、お前のこれからに戻すぞ。俺はここの場所を聞かない事を条件に加えて、今もたびたびレンシア国王の密偵を務めている」

「……もしかして、贔屓の店があるって遠くに出かけていたのは、その仕事の為だったとか?」

 ピンと来て尋ねると、彼は頷いた。

「そうだ。陛下にもお前の事は説明済みで、レンシア国へ移り住む手続きも全て完了した。後は、お前がそこに行くだけだ」

「あ、あの……エド……でも、私……いきなり言われても……」

 頭の中に様々な思いや感情が渦巻いて、思わず呻いてしまうと、エドガルドが悲しそうに微笑んだ。

「心配はいらない。アンソン夫妻は親切で、お前ならどこでも立派にやっていける。人間の街なら気の合う友人もできるだろうし……いずれ好ましい男と結婚すれば、お前が恋しがっていた家族を、もう一度作れる」

「っ!!」

 彼の言葉に鋭く胸を突かれ、リュネットは唇を戦慄かせた。
 人間の街で、愛する男性ができて結婚する……幼い日に盗賊になど襲われず、一座とあのまま暮らしていたら、そういう未来もあったかもしれない。
 公演で訪れた街の人と恋に落ちて、そのまま一座を抜けた仲間だっていた。
 いずれ自分も、両親のように愛し合う相手を見つけて新たな家族を作るのだと、幼い頃は相手も想像せずにただそう信じていた。

 でも、今は……リュネットが一緒にいて愛していると言いたい相手は、ここにいる。
 エドガルドだ。
 彼が人間でなくとも、他の人と結ばれたいなど思えない。

「今まで黙っていて、お前にどれだけ軽蔑されても仕方ないと思う。すまなかった」

 静かに頭を下げる彼を前に、リュネットは膝に置いた美しいショールを握りしめた。
 人間の街なら、豹人の冷たい視線を受ける事もなく、この綺麗なショールを羽織って歩ける。
 街には素敵な品を売る店がいっぱいあって、彼の受け取らなかった白い発光鉱石を売れば、好きなものを何でも買えるだろう。

 親切な老夫婦の養女になって幸せに暮らせと、帰ってから様子のおかしかったエドガルドは、それをずっと言い出そうとしていたのだ。
 リュネットは何度か無言で喘いでから、声を絞り出す。

「……首輪が外せるなら教えて欲しかったと思うけど、怒ってないよ。私はエドに養って貰っていたんだし、幸せだったもの。でも……どうして今になって話す気になったの?」

 そもそも自分がここにいる事が、エドガルドの負担になっているなんて百も承知だ。
 この首輪が外せないからこそ、彼はリュネットをここに置いて養ってくれているのだと思っていた。けれど、エドガルドの意思で全てを黙っていたなんて聞いたから、自惚れたくなってしまう。
 少なくとも、今まで彼はリュネットがここにいる事を、望んでくれていたのかと……。

「教えて……エドは、どうして急に、私をここに置きたくなくなったの?」

 鼻の奥がツンと痛くなって涙声が零れた。
 エドガルドはリュネットがいい加減に面倒になってきたか、他に一緒に暮らしたい女性でも出来たのかもしれないと、そんな想像が次々に浮かんでくる。



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