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黒豹に囚われた少女
【ファンタジー 官能小説】

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豹人と少女-3


 ***

 リュネットは建物の周囲を取り囲む太い木の枝に手足をかけ、昇り始めた。枝は頑丈だが、鱗状のかさついた木肌の表面はポロポロ崩れて滑りやすいから危険だ。
 気を付けながら、上部に作られた扉を目指して身軽に昇っていく。

 中央の棟以外は全て、この『鉱石木』と呼ばれる特殊な植物に大部分が浸食され、本来の入り口も塞がれてしまっているから、こうして入るしかないのだ。
 もっとも、古代文明の建物が地上にこうして露出し、鉱石木に囲まれながらもそこそこ使えるのは奇跡と言える。

 古代文明を滅ぼして世界の姿を作り替えたのは鉱石木だと、リュネットは幼い頃に聞いた事がある。
 ある日、空から巨大な岩石群が主要な建物をことごとく破壊したうえに、鉱石木を研究所から解き放ってしまった。

 最初は細い蔓草に過ぎぬ鉱石木だが、近くにいる人間の数が多いほど勢よく成長し、すぐさま石よりも固く太い枝になる。そして住居を破壊し埋め尽くしてしまうのだ。
 石柱のごとく建物を貫いた鉱石木から、破壊された瓦礫の上に細かな木屑が降り積もり、そこから更に新たな鉱石木が生える。
 今や古代文明の建物は大半が地面の遥か下に埋まり、そこは気味の悪い凶暴な蟲と合成獣がはびこる、死の地下空間になっている。
 ただ、岩石群も鉱石木もなぜか魔族の泉のある建物は破壊しなかった為に、この居住棟のような付属の建物も何とか残っているのだ。

「あ……」

 扉までたどり着いた時に風が吹き、リュネットはふと視界の隅が光った気がした。
 見渡すと、すぐ近くにある鉱石木の枝に、透明感のある白い石が半分埋まって、僅かな光を発している。
 うずらの卵ほどの大きさをした、綺麗な石だ。鉱石木に絡む他の植物の葉に隠れていたのが、風で葉がそよいだ拍子に光が見えたようだった。

(凄い! 大きな発光鉱石! しかも、白なんて初めて見た!)

 リュネットは顔を輝かせる。
 建物を囲む太い鉱石木には、この『発光鉱石』が時おり浮き上がってくる。
 これも密林の恵みと同じく、見つけた者が採って良いのだが、とても高価なものだ。

 今まで何度か他の色の石を見つけた事があるけれど、いつも近くにいた豹人に横取りされてしまった。
 指先で慎重に石を引っかくと、驚くほど簡単にホロリと枝から外れ、手の中に落ちる。

(エドにあげようっと。喜んでくれるかな)

 思いがけぬ幸運に、さっきの嫌な気分など吹き飛んでしまう。
 リュネットは自然と笑顔になり、ツルツルした手触りの良い石を大切にポケットへ入れる。そして足取りも軽く、灰色の薄暗い通路を歩き出した。

 真っ直ぐな長い通路には同じ形の扉が等間隔で規則正しく並び、それぞれ住人の名を記したプレートが付いている。
 辺りは静まり返って誰も見かけない。暗い階段を注意して昇り、リュネットは四階の一番奥の部屋に進んだ。

 『エドガルド』とプレートに示された部屋が、彼女の居候先だ。
 ちなみに隣はベラの部屋なので、お隣の住人が親切な彼女である事に心底感謝している。



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