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デザートは甘いリンゴで
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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7.結婚生活-1

 その年の暮れから美穂と英明の新婚生活がスタートした。
 少し広めのマンションに引っ越し、荷ときをしている時、美穂は小さめの段ボールの中にフォトスタンドを見つけ、手に取った。一枚の写真に、英明とその両親、そして英明によく似た中年の女性、その人の前に立つ小学生ぐらいの少年。
 「ああ、その写真」
 英明が別の段ボールを抱えて部屋に入ってきた。
 「姉とその息子も写ってるだろ? もう随分前のものなんだけどさ」
 「この子、誠也君?」
 「そうだよ。その頃は結構やんちゃでね」
 英明は笑いながら奥の部屋に入っていった。

 美穂はその写真をしばらく見つめていた。少年時代の誠也は、思いの外華奢な体つきで、いたずらっぽい笑みを浮かべて写っている。美穂はかつて彼に抱かれた時のことを思い出していた。逞しい腕に抱きすくめられ、夢見心地で過ごした時間を。


 英明は美穂との交際中から、事あるごとにしきりに子供が欲しいと言っていた。自分はもう若くないから、早い内に子供を作りたいんだ、と美穂を説得していた。
 美穂はこの先ずっと家族としてこの男性と人生を共にすることを心に決めていたので、それに応える心の準備はできていた。

 美穂はベッドで息を整えながら、隣でまだはあはあと荒い息を繰り返している英明に言った。
 「女の子だったらいいね」
 「女の子が欲しいの? 美穂は」
 「父親にとっての娘は妻以上の存在だって言うでしょ?」
 「そう言うね。でも僕がそうなるなんて実感はまだないよ」
 英明は照れたように笑った。
 「僕にとっては今も、これからも君が一番だよ」
 英明はそう言って、そっと美穂の身体を抱き、素肌をその大きな手のひらでさすった。
 美穂の心の中に柔らかく温かい安心感が穏やかに広がっていった。

 引っ越しの荷物がすっかり片付いてしまうのには一か月近く掛かったが、新しいベッドで英明が夜に美穂を求めたのは引っ越してから二日目だった。それから彼は一週間に二度ぐらいの頻度で美穂に挑んだ。
 ただ、やっぱり英明はその行為が辛そうだった。交際期間を含めて、もう何度も彼との情事を経験したが、いつも彼のものは硬くなりきれず、最後のフィニッシュまでにひどく時間が掛かるのだった。美穂はそれなりに気持ち良く、心が許せる男性に抱かれているという安心感はあったが、全身が弾けるような快感で包み込まれ、時にはそれに飲み込まれるような熱く激しいセックスはこの男性とはまだ一度も経験したことがなかった。その上、英明は最後に上り詰める時に、顔を真っ赤にして苦しそうに呻く。その反応は、気持ち良さの頂点というより、苦痛の絶頂というものに近かった。
 「英明さんは、あたしとの行為が楽しい?」
 「え? どうしたの? 急に」
 「なんか、いつも辛そうだから……」
 英明は申し訳なさそうな顔を美穂に向けた。「いつか言ったことがあったと思うけど、僕はセックスがあまり得意じゃない。というより、あまり気持ちいいと感じないんだ。昔から」
 「そうなの?」
 「それは決して君との行為が楽しくないってことじゃなくて、これまでの経験でも、それほど良い気持ちになったことはないんだ」
 「無理してるのね」
 「たぶん……」英明は頭を掻いた。「でも、君の身体を気持ち良くしてあげるのも夫としての僕の務めだから、がんばるよ」

 こういう男性もいるんだ、と美穂は改めて思った。男という生き物は常に性的なことを考えていて、チャンスがあれば女を抱きたいと考えているものだと思い込んでいた。そしてその行為に挑めば、決まって弾けるような快感を覚える。それはヘタをすると依存に走ってしまう程魅力的なもの、そうどんな男でも感じていると信じ込んでいた。しかしすぐ横にいるこの男性がその範疇にないことを、美穂は確かに身を以て実感していた。
 それから美穂は生理や排卵の時期を英明にも教え、妊娠する可能性が少ない時には無理して自分を抱かなくていいから、と伝え、英明もそれを了承した。


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