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【調教 官能小説】

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直人との出会い-1

綺麗に手入れされた長い髪を耳許で束ねた小顔の女性は一流の上品さを隠すように入店してきた。

「いらっしゃいませ御客様」

厳しい躾を受けたわたしたちは咄嗟に感じた上級の御客様に一斉に深く頭を下げてお持て成しに備えていた。

「あら。いやだわ。緊張しちゃうわ」

美しい小顔の女性はわたしたちモデル組の背丈と並んでも引けを取らない綺麗なバランスで佇み豪華な高級洋服がひとつひとつ独立して飾られた店内に満足するように頷いて微笑んでいた。

「此方にどうぞ御客様」

わたしはプロの社員さんに引き渡そうと女性の前に手を差し伸べて頭を下げて促していた。

「素敵なお店ね」

透き通る瞳でわたしを一瞥した女性は「お顔をあげてくれるかしら」とわたしに優しい笑顔を向けてくれていた。

女性が着こなす洋服は全てが高級ブランドで揃えられていた。耳許に嵌められたダイヤモンドのピアスは小顔を引き出するように輝きを放ち、手首に嵌められた腕時計はドイツ製の洗練された高級腕時計だと教えてくれていた。脚元を支えるヒールの高いパンプスは英国のオーダー製品をあからさまに伝えるように美しい曲線で高級なドレススカートを輝かせていた。

「宜しければVIPラウンジが御座いますので此方にどうかお願いします」

わたしは一流の御客様を早く社員さんに引き渡そうと必死だった。

「あなた綺麗ね。モデルさんかしら」
「仰る通りモデルを兼務しております」
「どうか宜しければラウンジに移動頂けないでしょうか」

わたしを見抜いた女性を早く奥に通したくて焦ってしまっていた。

「少し見てから伺うわ」

高級なボディーオイルの香りを残して店内の空気を変えるように上品な仕草で店内を眺めていた。

わたしの耳許のイヤホンは速くラウンジに促すようにわたしを急かすよう強い業務指示が飛び交っていた。

「御客様、本店の支配人が他の御客様が貴方様に見惚れてしまう前にラウンジにてご案内させて頂けないかとご相談を受けて居ります。どうか此方に移動をお願いできないでしょうか」

一流の御客様に対する上級のお持て成しを伝え御客様に相応しく観せるように訓練されたモデルの笑顔を見せつけて早くラウンジに促すように焦っていた。

「あなた上手ね。あなたも綺麗よ」

本当に上品な笑顔で笑い掛ける女性にモデルのわたしですら満面の笑顔を維持するのが限界になりそうになっていた。

「冗談よ。わたしはどちらにいけば良いのかしら」

落ちた。素直にこぼれた一言を堪えてようやく社員さんに引き渡したわたしはぐったりと疲れるように休憩室に移動してしまっていた。

「ちょっと夏希。今の誰なの。女優さんなの」

沙織は興奮するようにわたしに問いかけていた。

「知らないわよ。見たでしょ沙織も。あの人、とんでもない高額な洋服を着こなしてモデルのわたしたちに挑むように輝いていたのよ」

「見た見た。幾つなのかな。30代に見えなくもないし20代といわれればそうかなとも思う。実際幾つくらいだったの」

「分からないわよ。たぶん30歳になるかならないかじゃない。わたしたちが知らないだけで本当の女優かもしれないよ」

高額なアクセサリーをさりげなく身に付けて女優のような雰囲気でわたしを見つめた女性はモデルのわたしたちですら見惚れる美しい笑顔を残してラウンジに消えてしまっていた。

「わたしもあんな女性になりたいな」

沙織はわたしの隣で瞳を輝かせながら遠くを眺めて呟いていた。

「そうだ。ラウンジに言って覗いてこよっと」

沙織は大学生らしい無邪気な笑顔で幼い身体に矛盾する大人の色気を漂わせながら綺麗な身体を弾ませてラウンジに消えてしまっていた。

「疲れた」

珈琲を淹れた控え室でゆっくり寛ごうと伸びをしていたその時だった。

「夏希ちゃんいる?」

控え室の裏口にオーナーの沙也加さんが突然わたしを探すように辺りを見回していた。

「はい。ここです」

咄嗟に立ち上がり本物のモデルの沙也加さんが居る事実に動揺しながら「ここです」と背筋を伸ばして立ち上がって見惚れることしかできなかった。

「いたいた。これを渡そうとして来たのよ」

沙也加さんは分厚い封筒をわたしに渡すように両手でわたしの手を掴み「これはあなたのモデルとしての対価なのよ」とプロモデルの報酬を断らせないよう強く手を握って微笑んでいた。

「でも。それは」

報酬の折衝をした沙也加さんが勝ち得たお金でわたしには躊躇うことしかできなかった。

「夏希ちゃん。よく聞くのよ」
「モデルはね対価で応えるのよ」
「安く見せたらモデルとしてお終いよ。分かるかしら。これからもよく覚えておくのよ」

そう言ってわたしの頭に手を添えて「またね。夏希ちゃん」と満面の笑顔で手を振りながら裏口で待つ高級セダンに乗り込んで颯爽と居なくなってしまっていた。

わたしは突然の出来事に理解するとができなく控え室で渡された分厚い封筒を抱きかかえながらあの時の直人さんの手紙を思い出して返信を送って落ち着かせようとしていた。

直人さん
今週の木曜日お休みなのでご都合が宜しければランチでも如何でしょうか。
川瀬夏希

思考が鈍ったわたしは直人さんを頼るように送信してその日の疲れをやり過ごすことしかできなかった。


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