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没作品 硝子の心 処女作
【若奥さん 官能小説】

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36歳の婚活-1

湯船から薄っすらと昇る硫黄と柔らかい湯を囲む檜の香りが穏やかな安静を齎してくれていた。
隣で浸かる女性は目を閉じたまま深く息を吸い込むような仕草をしては長い脚をほぐすように大きく伸ばして寛いでいた。

「あなたは誰なの」

ようやく落ち着きを戻した私はそもそもからを聞きたかった。

「わたしはね沙也加よ」

包み笑いで目を閉じたまま悪戯に「違うのかしら」と続けていた。

「沙也加さんあなたは誰ですか」
「あらやだ、私の方が歳下よ。千佳さん」

吃驚してしまった。突然名前で呼ばれたわたしはお湯を揺らすように女性を振り向いていた。

「何でわたしの名前を知っているの」
「わたしは自己紹介したわ。社交のルールだと次は千佳さんの番よ。違うのかしら」

悪戯に笑う沙也加と名乗る女性は湯船に手を伸ばしながら湯気に向かって目元を細めて綺麗な歯を輝かせるように笑っていた。

「はぐらかさないで教えてよ。何が起きているの」
「見たとおりよ。全ては決まっていたってことなのよ」
「何が決まってるの」
「見たとおり。最初から決まっていたこと。その決まっていたことに千佳さんが選ばれたってことよ」
「全然分からない。何が決まっていたの」
「わたしも選ばれたひとりよ」

遠くを眺めるように沙也加と名乗る女性は目を細めて笑顔を保っていた。
わたしはその笑顔に向けて答えを聞き返していた。

「あなたも選ばれたって何なのよ」
「その言葉通りよ。選ばれてしまったってことよ。あなたと同じことをされたってこと」

笑顔のままの女性は脚を畳んで湯船の縁に長い腕を載せて「わたしも千佳さんと同じことをされてきたのよ」と続けていた。
「ちょっと違うかな。もっと酷かったかな」
天井を見上げるように両手を伸ばしながら小さな顔を挟むように綺麗な腕を伸ばしてから可愛らしい笑顔でわたしのことを見つめていた。

可愛らしい笑顔だった。
おそらくわたしよりも遥かに美しい笑顔だった。スタイルも完全に負けている。それなのにその笑顔は別世界のような輝きをみせていた。

「信じられないわ」

わたしは沙也加と名乗る女性の瞳を逃さないように見つめ返していた。

「あらやだ。聞かないほうがいいわよ」
「千佳さんも言いたくないでしょ」

最もな返答だった。真っ直ぐわたしを見つめる瞳は泳ぐことなく据え置かれその瞳はもう良しましょうと言っているようだった。
本当なのかもしれなかった。

「身体を洗って今日はゆっくり寝ましょう。直人のことなんて放っておいたっていいのよ」

瞳の奥が優しく笑ってわたしを見つめていた。わたしはその瞳を見つめながら涙が溢れてしまっていた。

「ちょっと泣かないでくれる」
「わたしより歳上なのよ」

悪戯に微笑んで湯船のわたしを包むように長い腕でわたしを抱き寄せてくれていた。わたしは涙が止めどなく溢れ鼻水が零れるのも構わずに止まらない涙を流し続けていた。

「綺麗に洗って一緒に寝ましょ」

わたしはしゃくりあげるように頷くことしかできなかった。

洗い場に向かう私達を映す大きな鏡は直人らしさだと理解できるまで落ち着きを取り戻していた。
鏡に映るわたしは分かり易く完全に熟した女の身体を教えてくれていた。隣を歩く沙也加はわたしより遥かに小さな顔の大きさでわたしより肩ひとつ分は背が高かった。
わたしは自より背丈が大きい女性と並ぶのは久しぶりで嬉しそうに微笑んでいるようだった。
鏡に映る小顔の沙也加は身体の曲線がうっとりするほど美しく、隣を歩くわたしは桃のような胸がかろうじて張りを保つように上下に揺れて腰回りは見比べれば分かり易く豊満そのものだった。

「格好いいでしょ」

鏡の私に向かって沙也加は綺麗なウインクを魅せてゆっくりと檜の椅子に華麗に脚を綴じて座っていた。
わたしは苦笑いを堪えながら隣に座りドイツ製のシャンプーポンプを押してゆっくりしようかしらと自分自身を取り戻せるまで回復していた。


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