巴のバレンタインデー-10
「大丈夫、分かってるよぉー。」
天気も良く絶好のお祭り日和、電話越しから友人の風馬君からの叱咤激励の言葉が。
「へぇーあの水野って人そんな事に。」
僕の巴を馬鹿にし傷つけた彼はその後、その話題で持ち切りクラスの色んな人から非難を浴びたようで、最早彼のファンなど誰も居ないとか。
「…雪祭りデート、上手くいくと良いね。」
「上手くいって見せるさ、必ずね。」
そろそろ約束の時間が迫って来た。
「じゃそろそろ切るわ。」
「うん。」
「ありがとう僕の事心配してくれて。」
「当然だよ、友達なんだからさ。」
改めて聞くと本当に優しい子、あの時期は幻に見えて仕方がない。
電話は切られ、僕は孤独になった気分となる。
周りは人だらけ、そこには案の定カップルの姿だって。
「巴…。」
僕は彼女を買いかぶり過ぎたのだろうか。
いつだって元気で態度もデカい、だから柊さんと違って強気で、だから僕が練習で忙しくても分かってくれると思ってた。
親の大きな手に引かれ「次あれが食べたい」とはしゃぐ子供。
チョコ、食べたかったなぁー。
今更だけど水野って奴にチョコをあげて急に胸やけがしてきた、後になってそいつは巴があげたチョコをゴミ箱にポイッしたそうだ、本当に酷い男だ。
そうこう想いに老けていると約束の時間から10分が経過し。
「…やっぱり来ないのかな。」
独り言を呟く。
人は居なくなって初めて気づくってよく言うけど本当だね。
「巴、巴…。」
向こうが何やら騒がしくようだ、けど今の僕には全く興味もなく。
「ほら何してんの！早く行くよ！」
「っ！！」
見覚えのある声、見覚えのある手の触感。
「スキージャンプだって、迫力ありそうだよ！」
「…う、うんっ！」
戸惑いはかなりありつつも彼女の腕を引っ張られつつ人混みに紛れ見物する。
華麗なジャンプから湧き出る歓声。僕はキラキラと目を輝かせる彼女の横顔に目をやる。
「凄いね！」
「そうだねー。」
普段の関係に戻ったみたいだ。
「巴。」
「んー。」
「御免、そしてありがとう。」
「……仕方ないよ、だって私アンタの事、大好きなんだからさ！♪」
この日の天気のように僕の心も晴れ晴れとした。
後で風馬君達にも報告しないと。
強気な彼女を止められるのは僕しか居ないみたいだ…ってね♪
次回、５７話に続く。