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長い夜は湯煙と共に
【SM 官能小説】

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神は福引のガラガラを回すか-1

“温泉旅館一泊、ペア一組2名様御招待”
僕、幸島照羽(ゆきじま てるは)がそのチケットを福引で引き当てたのは、年の瀬も押し迫ったクリスマスイブの夜だった。
年齢=彼女いない歴の高校生である僕は、本来ならクリスマスイブの夜は自宅に引きこもり、『カップル爆発しろ』と呪詛の言葉でも吐いているべきなのだろう。だが、僕には若干、普通の人よりひねくれているところがある。世間が思うステレオタイプなモテない男の聖夜など過ごしてたまるかと、威風堂々、単身商店街に繰り出したのである。
右を見ても左を見てもカップルだらけの中、臆せず童貞一匹、年末年始に備えた買い出しをしていると、商店街でやっていた福引の券が5枚、10枚と溜まっていった。溜めたからには引かねば損と、勇躍福引会場に赴いてガラガラを回したところ、前述の通り温泉旅行が当たったというわけである。

(うわあ……)

当たったとき、僕は微妙な表情をしていたと思う。言うまでもなく、ペアで当たっても一緒に行く相手がいないからだ。そして、福引の係の人はありありと微妙な表情をしていた。まあ当然だろう。クリスマスイブに一人で買い物をしている僕は高確率で彼女がいないわけで、『なんでよりよってこいつに』と思うのが道理だ。
だがしかし、確率という名の神の審判は、既に下っている。辞退するのでもう一度引き直してくださいと言うわけにも行かず、僕はチケットを受け取り、一人暮らしのアパートへと引き上げるしかなかった。

(さて、どうしようか)

アパートの部屋に寝転がり、僕は考えた。金券ショップに持って行って換金するという手もあるが、それも勿体ないと思った。元々旅行自体は好きな方である。
結局、僕は一人で行くことに決めた。誰か友人を誘うことを考えないでもなかったが、誰にするか悩むのが面倒だった。

…………

年が明けて三が日も過ぎたある朝、僕は旅行装束に身を固め、右の肩にバッグをかけて駅のホームに佇んでいた。

(うわあ……)

またしても僕は、微妙な表情をしていたと思う。ホームが人ごみで溢れ返っていて、身動きもままならない程だったからだ。もちろん、帰省のUターンラッシュにかち合ってしまったのである。

(もう少し、後にした方がよかったかな……)

三が日を外せば大丈夫だろうと、甘い読みをした自分を呪う。もう少し後ろにずらすこともできなくはなかったが、新学期の準備があれこれ必要なことを考えると、冬休みの最後に出かけたくはなかった。それでこの日に決めてしまったというわけである。

(まあでも、今更言っても始まらないよね。この混み具合だって、いつまでも続かないだろうし……)

そう自分に言い聞かせたとき、横合いからかん高い女性の声が聞こえた。

「あっちへ行きなさい、ゴミ虫!」

一瞬、自分が言われたのかと思ってビクリとした。しかし、声のした方を見て、そうではないことが分かる。僕から少し離れた場所で声を出したのは、かなり長身の若い女の人だった。キャリーバッグを引いているところを見ると、僕と同じように旅行に行くのだろうか。明るい栗色に染めた長い髪をポニーテールにしている。顔を見るとモデルのような美人ではあったが、目つきは冷たく、かなりきつい印象を受ける。僕みたいな童貞男子は、間違っても関わり合いになってはいけない人種だ。
その女性、便宜的に呼んでモデルさんが、僕がいるのとは別の方向に、前述の凍り付くようなまなざしを向けていた。彼女の視線の先をたどると、4、5人ほどの男性が人ごみをかきわけて逃げていくところである。何があったのか怪訝に思っていると、モデルさんの連れと思しき2人の女性がモデルさんを宥め始めた。

「まあまあ、ナンパされたぐらいで声を荒らげるなんて、はしたないですわよ」
「相手の方も悪気があったのではありませんし、もう少し穏便にお断りして差し上げても……」
「ふん。ああいう男達は女だけと見ると見境なく声をかけてくるんだから。ビシッと言って身の程を分からせてあげないといけないのよ」

モデルさんは、連れの女性達の言葉を歯牙にもかけない。

(ひええ。正月早々嫌なものを見た。くわばらくわばら)

こんな混雑したホームでナンパする方もする方だが、ナンパされただけであの苛烈な物言いとは、驚きを通り越して僕は恐ろしくなった。早く温泉に浸かって、今見た光景を脳みそから洗い流したい心持がした。
やがて電車がホームに滑り込み、開いたドアから僕は吸い込まれる。車内はそれほど混んではいなかったが、座席は空いていなかった。そのうちに後からどんどん人が入ってきて、僕の背中は反対側のドアに押し付けられる。あっと言う間に車内はスシ詰めになっていた。
まあいい。目的地の温泉旅館はかなりひなびた田舎にある。乗り継ぎを繰り返すうちにきっと空いてくるだろうと、僕は楽観視した。それに今の場所も、窮屈だが首を回せば景色を眺めるには悪くない。降りる駅まで、このままこっち側のドアが開かないでくれたら楽だなあ等と都合のいいことを思いながら発車を待とうとした。
そのときである。僕の前に、一人の女性が立っているのに気付いた。何としたことか、あのモデルさんだ。

(うげっ!)

と思った瞬間、モデルさんは他の人に押されて僕の方に次第に近づいてきた。改めて近距離で見ると、モデルさんは身長161センチの僕より頭1つ分以上背が高い。ヒールの高い靴で若干底上げされているとしても、元が180センチ台半ばくらいありそうに思えた。そして……

ボフッ

避ける猶予はなかった。僕の顔はモデルさんの、かなり豊かな胸に埋まってしまっていた。顔全体が柔らかいクッションで覆われたようになって、息が苦しくなる。

「んんっ!」

どうにか空気の流通を確保でき、僕は無意識に上の方に視線を向けた。


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