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(短編集)水脈・恍悦ガール
【コメディ 官能小説】

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恍悦ガール-1

【恍悦ガール】

甲田悦子(こうだえつこ)は読書家だ。

悦子が本好きになったのは小学3年生の時のこと。読書家の父親の書斎にあった星新一のショートショートを手にしたことが切欠だった。

表装のコミカルなイラストに惹かれて中を覗いてみると、一つ一つの話が短く、悦子にも直ぐに読めそうだった。

試しに読んでみたら、その面白さに見事にはまってしまい、読み進める内に、どんどん本が好きになっていったのだ。

以降、赤川、宮部、東野などのメジャー処を経て、6年生になる頃には、憂い顔で太宰治を読むまでに本好きが成長していた。

その結果、中学に入る頃には、大量にあった父親の蔵書は殆ど読み尽くしていた。満足しきれない悦子は、当然ながらさらなる活字を求めた。

そんな時の悦子の本に対する嗅覚は鋭かった。結果、書斎の引き出しの奥深くにブックカバーをかけていたフランス書院のロマンスシリーズは元より、本棚の裏に隠していたエロ本まで探し当てるにいたったのだ。悦子はそれを読みながらオナニーを覚えた。

しかし、その話は余談。本編と関係ないので割愛しようとしたけど、ちょっとだけサービス。

「うそ、やだ、こんなところを…、こ、こうするのね…あっ…うそ…き、気持ちいい…ああっ、ああん」

それまでは居間で読書していた悦子だったが、自分の部屋で読書することが多くなった。

そんな悦子も就職活動をする年齢になった。漠然と本に携わる仕事をやりたいと思っていたが、それがどんなものかまでは決まっていなかった。

丁度その頃、出版社の裏方で働く女性のテレビドラマが放映されて、悦子はヒロインが行う校閲の仕事ぶりにドップリとはまってしまった。

「こんな仕事がしたい!」

目から鱗だった。悦子がこんな風に思ったのには、もちろん背景があった。父親の蔵書を読み尽くした後、何度も読み返す内に、より深くその世界に入るために、内容を検証し、事実関係を調べるようになっていたのだ。

今まで漠然としていた自分のやりたいことが明確になった瞬間だった。ドラマのヒロインが悦子に似ていたことも、多少は影響していたかもしれなかった。

初めは大手から始まり、中堅の出版社にエントリーをし、面接では「校閲の仕事がしたいんです。校閲部に配属してください」と、面接官に希望を熱弁し続けてきた。しかし、それが却って裏目に出たのか、ことごとく落とされ続けてきた。

悦子の落胆する日々が続いた。校閲の仕事ができるなら、会社の大小に関わらず、どんな出版社でもよくなっていた。

「はぁ…」

悦子は、この日も手応えが感じられないまま面接を終え、肩を落として街を歩いていた。ふと、ショーウインドウに映る自分の姿を見てハッとした。

「ダメよ、落ち込んでたら!暗い顔してたら面接に受からないぞ!」

悦子は気分を盛りあげようとして、俯き加減の顔を上に向けた。すると、雑居ビルの窓に【七色出版社】という文字が目に入った。

ピンと来るものがあった。悦子は求人の有無を確認もせず、雑居ビルの階段を駆け上がり、その出版社に飛び込んだ。

「すみません。校閲の仕事がしたいんです。雇ってもらえませんか?」

扉を開けた時の第一声だった。


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