あたるの選択-1
「どういう意味よ！」
「……どうって、言葉の通りだ優華。」
俺、佐伯あたる。今現在ここ青森の自宅にて重たい空気に包まれている。
兄の昴とその婚約者いや妻の優華さんが言い争いをしている。
「あたる、お前そろそろ独り立ちしてみないか？」
この兄の一言が元の発端だ…。
とは言われても俺はまだ高校二年生だ、一人暮らし何てまだ…、でも俺は普通の両親家庭に育ったごく普通の高校生じゃない、兄夫婦の暮らすこの家を出て近くのアパートで自分の力で自炊したり掃除をしたりする事は容易な事だ。
それに何より二人はついこないだ正式に籍を入れ夫婦となったんだ、幸せな新婚生活に俺のような居候の邪魔者がこの愛の巣に居たら嫌だろうし、前々からそう考えていたから兄のその一言は懸命な気もしなくもない、でも…。
「それじゃー何？昴さんはあたる君が邪魔だって言うの？自分から誘ってあれだけ大事に想ってたのに、いざ結婚して手の平返す訳？」
「違う！そんなんじゃ。」
「何が違うって言うのよ！実際そうでしょ！？」
「勿論それも考えた、もし一人暮らしをオーケーしても全力で支える、困った事があればいつでも駆け付けるし、何度か足も運ぶつもりだ、邪魔だから追い出す何て。」
「でも…。」
「大体君こそどうなんだ？折角結婚して幸せな生活が始まるっていうのに…、一度は考えなかったのか？あたるはどうするんだ？このまま居られると邪魔なんじゃって。」
邪魔…、その一言にカチンときた彼女は兄の目先にあるテーブルとドンと両手で叩く。
「実の弟に対して何て事言うのよ！」
「…ごめん。」
自身の失言に謝罪する、彼女も「私に、じゃないでしょう」と言わんばかりに呆れ顔で。
「…でもまぁ昴さんの言うように一度は考えたよ、でも！追い出そう何て発想は一度も思わないよ。」
「何でだよ、だって、その…。」
「分かってるよ、私の事を思って言ったんでしょ？」
「……。」
無言の返事。
「ありがとう、でも私なら大丈夫…、そりゃ新婚生活は普通夫と妻と二人ってのが常識かもしれないけど、そんなのケースバイケースでしょ！考えてみれば何も不思議な事じゃないよ、母親と同居したり突然兄弟が居候したり、そんな家庭何処にだって溢れてるし。」
「優華…。」
兄の苦渋の決断、そして優華さんの懸命な考え。
あれ、何だろう…急に目元が熱くなってきた、視界もぼやけてきて。
「あたる君…。」
気が付けば俺は泣いていた、止めようにも止めれずにいて。
「…ねぇ、俺って…やっぱり、っ！」
そんな俺を見て、兄は俺を強く抱きしめてくれた。
「兄貴…。」
「ごめんな！あたる！…俺、どうかしてたよ、お前の事は昔から大好きだったのに、小さい頃から家が親が貧相で、そんな時にいつもお前は俺の近くで笑っていてくれたのに。」
「……良いよ、俺だって、優華さんの事想ってそう言っただけだろ？」
この頃結婚の事で兄と距離が放れて居たけれど、やっぱり大好きだ！
「俺は、一人暮らししたいかっていうと…その。」
「焦らなくて良い、これは他でもないお前自身の生活の事だから。」
「兄貴。」
「答えが出たら言ってくれ、いつでも良いから…。」
「うん。」
そう言って俺も愛おしい兄を抱き返す。
「ありがとう、大好きだよ。」
「俺も、辛い時いつも傍で微笑んでくれて嬉しかった…。」
やっぱ俺って皆から大事にされてるんだな。
ほっと力が抜けたら不意にくしゃみが。
「ふふ、お風呂湧いてるから入っちゃいなさい。」
「風呂かぁー、あたる！一緒に入ろうぜ。」
「えっ、んないい歳こいて何を。」
「良いじゃん良いじゃん！兄弟で背中洗いっこしよーや、俺先に行くぞ。」
「おい待てよーったくー。」
子供の頃の面影を重ねつつ、兄についていく、とその前に。
「優華さん！」
「何？」
「ありがとう！俺の事そこまで考えてくれて！」
「当然よ、君は私の大好きな昴さんの可愛い弟さんだもの。」
風呂場から兄の声の陽気な催促の声が聞こえ、彼女も「ほら呼んでるよ！」とキッチンの方へ去って行った。
「あぁ！今行くよ！」
思わず心躍り小走りで向かう。