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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』-20

「濡れてるよ……べっとりとね……」
「んひっ……」
 耳元に口を寄せ、息を吹きかけるようにささやく。
「は、はずか……し、あっ! あああぁぁぁぁ!!」

 くちゅ、くちゅくちゅくちゅくちゅ……

「ゆ、指……動いてる……く、くぅあぁぁぁぁあ!」
 いつもは自分だけが触れている場所を、別の誰かが蹂躙している。そして、そこから生まれる性の痺れは、自慰の時に感じたそれの比ではなかった。
「あ、そ、そんなふうに……あ、い、いやぁ……あくっ……ひっ」
 なにしろ、自分の意識とは全く違うように陰唇を嬲ってくるのだ。望みどおりのところを弄られたかと思えば、そうでないときもあり、しかも、刺激の強弱が全くの不定率で起こるから、碧としてはたまらなかった。
 自慰のときは、完全に自分のペースで性器を弄ぶことができる。自分の思うように自分のペースで愉悦を楽しむことができる。確かに、気持ちのよさはあるが、まるで用意されていたような官能の悦びに終始する面はある。
「あっ、いい……浩志さん……浩志さん……ん、んくぅ……」
 誰かに触られている。それも、恋い慕う男の手で。その事実を加えただけで、官能の昂ぶりは乗倍の効果をもたらし、瞬く間に碧はその虜となった。

 じゅぷっ……

 股間に全てが集中し、それが形を変えて染み出してくるのがよくわかる。
「あ、ああ……」
「ははっ、ヌルヌルだよ」
「い、いやですそんなこと……」
 言われなくても、わかっている。
「ほら、ね……こんなふうに、さ……」
 しかし浩志は、その指を引き抜いて、その先に滴る粘性の高い透明液を碧の目の前にかざして見せた。
「い、いや……」
 あまりの恥ずかしさに、碧が顔をそむける。男性との性交渉は、これが初めてだというのに、緊張することもなく体が正直な反応を示したので、自分がいやらしいということを蔑まれているような気がした。
「可愛いよ、碧さん……」
「ほ、ほんとですか……?」
「ああ」
 だから、浩志にキスをされたとき、碧は胸が熱くなった。自分でも醜いと思う傷跡があり、裸体を晒して映写機に収まり、他人から見れば尋常ではない過去を持つ自分のことを、浩志は“可愛い”と言ってくれたのだから。
「嬉しい、です……」
 人当たりのよさを思わせながら、固い殻を持っている碧。しかし、いま自分に触れてくれているこの人の前ではそれも必要がないことなのだと、大きな安堵に包まれる。
「もっと、碧さんのことを見たい」
 いうなり、浩志は下半身の衣服にも手をかけた。
「は、はい……どうぞ……」
 碧は抵抗などしない。従順に、腰を少し浮かせて、浩志を手伝った。
 する、と布地が太股の肌を滑っていく。風の流れが、直接伝わってくるその感触は、いつか感じたものと同じ。
「あっ……」
 そして、その風がもっともひやりと響く場所も、顕になった。
「すごい……」
 浩志の呟きが、碧に羞恥を与える。彼の息づかいさえ、風になって肌に降りかかってくるのがわかる。
「真っ赤になってる。……キラキラしてるよ」
「そ、それは……」
 熟れているからだ。生理学的に言えば、刺激を受けたことで充血し、柔らかいその部分を保護するための分泌液を、碧の体が吐き出したからなのだが。
「………」
「あ、ひ、浩志、さん!」
 浩志の頭がゆっくりとその場所に近づいていった。

 ぴちゃり……

「そ、そんなトコ―――」
 柔らかいものが、押し当てられた。浩志の舌であることは、考えなくてもわかる。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……

 まるで腹を空かせた子犬が一心不乱にミルクを啜っているように、浩志の舌が淫靡な音を生み出している。
「あ、ああくっ……い、いやっ……ん、ん、んっ、んんあぁ!」
 同時に、指で弄られていたときとは比べ物にならない快楽も。
 当然だが、自分で舐められる場所ではないので、碧にとっては初めての刺激と言うことになる。それゆえに、未知の刺激……それも、快楽を含んだその刺激の前に、碧の嗜好はすっかり淫靡なものに支配された。


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