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恋のMEMORY
【少年/少女 恋愛小説】

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孫を頼む!-7

「あっ、すいません!」

会社のパーティのように僕の空のグラスに酒、じゃなく烏龍茶を注いでくれるお爺さん。
僕は謙虚に両手でグラスを持ち、彼の好意に素直に甘え。

「良いって事よ、未来の後継者様さんよー。」
「はぁ…。」

言葉が少し可笑しい、酔いが深まって来たか…。

「…さっきは本当にすいませんでした。」
「?なんのことだ。」

僕は昼間彼に「後を継ぐ」何て軽口を叩いた詫びをし。

「経営の事、何も知らないで本当軽率でした。」
「…まぁ確かに、若造が何言ってんだとは思ったな。」
「………。」
「でも君に悪意は無い事は知っていた、知っていたけど!」
「お店の、事ですね?」

先祖代々何せ大正時代からだしな。

「……確かにそれも大事だ、でもそれはアイツの次にな。」
「アイツって言うのは若葉ちゃん、あっいや若菜さんの。」

何言ってんだ僕、少し移ったか。

「ははっ、最悪店の事はどうなったっていいさ、確かに皆の言うように先祖代々受け継がれてきたわしらからしたら世界遺産そのもの、けどそれ以上に大切なのはわしの孫。」
「……。」
「あの子はとても可愛い、そして何よりも優しい、世界中の誰よりも。」
「知ってます。」
「それなのに幼少期に母親に捨てられ、男手一つで父親に育てられるもその親も不慮の事故で他界し……、このわしが引き取るもしばらくして突然自分を捨てた母親が戻ってきたり、店や孫を思い過ぎて他人の言う事にまるで耳も貸そうとせず、下らない意地を突き通そうとして何度もあの子を傷つけるどうしょうもない馬鹿な老いぼれたりと色々と苦労を背負って。」

そんな事、そう口に出そうとするも何故か出来ず。先程まで賑わっていたテーブルも肉もなくなりグラウも空、残るのは焦げた肉と野菜だけと後の祭りと化し。

「わしは見ての通りもうよぼよぼの老人だ、あの店にいつまでもしがみついてはいられん
正直年貢の納め時とは薄々覚悟はしておった。」
「お爺さん…。」
「でも!わしにだってプライドはある!だから……、ただ君があんな軽口を叩いた時わしは確かに腹は立ったさ、わしの大事なもの二つ同時に軽視されたと思ってな。」
「二つ?」
「あの店、そして若葉の事、先祖代々護り続けた店をそんな軽い言い方をされて、しかもそう発言した奴がわしの可愛い孫の彼氏だと、そう思うとつい頭に血が昇って、わしがいつかお迎えが来て、その後の世界でこんな軽口叩く奴に大事な店と孫を託すのか思うと、つい…。」

もはや詫びる言葉もない。

「もう謝らんでええ!何度も言うように君に悪意がないのは当に自覚している、どれだけ
立派で優しい素晴らしい男の子なのかを、今日の例の機転、それに落ち込む孫を元気づけていたのかを見れば一目瞭然。」
「そんな。」
「それにあまり君の事あれこれ悪く言うと孫に嫌われてしまうからな♪」

と、にこっと微笑む。

「だから風馬君!」
「っ!」

彼は突然その場で土下座のポーズをし、僕に深々と頭を下げ。

「どーか若葉を!あの子をどーか…頼みます!」
「………。」
「わしはどうなったって良い!けどわしが死んでその後あの子がどうなっていくのか、あの子がわしの居ない世界でメソメソ泣いて一人で寂しくおるんでないか、毎日を不幸せに過ごすんでないか、そう考えると死んでも死に切れん……だから、だからどうかあの子を
若葉を幸せに、ずっと笑顔で居て欲しいんじゃ、わしはあの子が笑った顔をしているのを
見てるのが一番の幸せ生きがいだから…。」

これまでに見たこともないくらい必死な形相、僕が思っている以上にこの人は。

僕もそんな彼の手を両手でぎゅと握り。

「分かってます!彼女は僕にとっても世界で一番大切な人。」
「………。」
「だから、無茶しないで下さいね、死ぬなんて軽々しく言わないで下さい、彼女だってそんな事、望んでませんから。」
「…そう、じゃな、くっうう。」

これが男の絆というものなのだろうか、世界で一番大切な人の幸せを心の奥底から願うこの人の思いに答えるように力強く彼を抱きしめた。

「……お爺、ちゃん。」


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