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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(三)-5

 彼女の精神は、接吻を起点として幼年期に終りを告げて、潜在的な意識の表層部を年齢に合致する“恋慕と情欲”に伴う感覚、感情が加わった。
 接吻を何度も重ねた事によって、夕子の初(うぶ)な心は、伝一郎を主の子息としてでは無く、“一人の異性”として捉るに至り、やがて心酔する程、惹かれる様に変化して行った。
 思えば、女学校を経て、直ぐに伝衛門の屋敷に住み込み奉公と為った夕子は、精神的成長が際立つ多感な時期を、俗世から隔離された環境に身を置く事で、異性に対する心の成長を著しく遅らせていたようである。
 言う成れば、彼女の少女然とした“清節なる心情”は、何人の干渉も受ける事無く“純粋培養”されたが故に、今日迄、保たれて来たので有る。
 大人へと変貌する肉体に合致した“女心”を獲得した事により、夕子は、生物として最も重要、且つ重大な機能の一つである“生殖本能”を、覚醒させるに至ったのだ。

 接吻に、すっかり魅せられてしまい、今では、自分から望んでいる──。異性を求めてしまうと言う、初めて心に涌き上がる感情。例えるなら、“心の乾きを満たす”様なもので有ろうか。成長によって齋(もたら)される急速な心情の乱高下は夕子を多いに戸惑わせるばかりか、翻弄される事も多々、有った。
 無意識に伝一郎の姿を目で追い、平静で居られ無くなる自分に気付き「ひょっとしたら此れが、恋と言うものかしら」と、彼女は漸く、“自分の想い”を知るに至ったのである。

 口唇を重ねる度に、身体が熱って行く──。恋した女は心から「此のまま、最後まで行き着けたら……」と、願って止まない。そんな“女の本性”が胸裡を掠める度に、夕子は頭(かぶり)を大きく横に振って、否定を繰り返した。
 清節だった少女の稚拙な性知識では、此れより先、如何様に致すのかが、些か不明瞭で、不安ばかりが先立つ事が、先ず一つ。それと、もう一つ。どちらかと云うと此方の方が重大で、彼女を多いに悩ませる──。此の恋の行く末である。

 主の息子と下女の“道ならぬ恋”なんぞ、街の住人からすれば単に迷惑な話で有り、誰からも祝福される訳が無い。
 二人が引き裂かれるのは必至で、下女は“村八分”に処され、街を追われる身と為るだろう。場合によっては下女のみに非ず、親兄弟から縁者に至る迄、同累に遇う可能性も有り得る。否、同累に遇わずとも間違いなく、此の街に住み難く為ると思うべきで有ろう。
 周囲からすれば、道ならぬ恋は“裏切り行為”以外の何物でも無く、街を築き上げてくれた主への恩を仇で返すばかりか、街の“秩序”を乱す者として、住人は如何なる手を用いても、排除に掛かる筈だ。
 
 夕子は、心の中に芽生えた恋々(れんれん)足る想いを棄て去りたかった。
 だが、否定すれば否定する程、心の中に点いた恋心は、意に反して更に大きく成って行く。絶ち切ろうと思う度に、胸を締め付ける様な苦しさが、夕子を苛み続けた。
 それでも、昼間は忙しさにかまけて気を紛らわす事は出来た。が、夜の訪れと共に心は再び乱れ、苦しさが増して辛くなる──。此の二晩。夕子は人知れず、涙で枕を濡らす迄に為っていた。
 


 


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