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なりすました姦辱
【ファンタジー 官能小説】

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第三章 制裁されたハーフモデル-3

 言ってすぐ、まずは毅然と「俺ではない」と言わなかったことを後悔した。股間が当たってしまったことが負い目になり、力弱い声で言ってしまって、それが土橋のみすぼらしさと合わさると、誤魔化そうとしている、誰の目にもそんな風に見えてしまっただろう。
「トボけんなよっ。お前、今降りる前、私のお尻触ったじゃんっ!」
 乗車を促すベルが鳴っていたが、足を止めて騒ぎを見守る人が多かった。集まる好奇の視線に耳が熱くなってくる。
「警察、呼んだ方がいいんじゃないの?」
 何の利害もないが故に無責任なサラリーマンが、口元に下衆な笑みを浮かべて声をかけ、出口を目指して通り過ぎていった。
 は? 警察?
 少し離れたところにいた中年女が、ドア閉めを確認したばかりのウインドブレーカーの係員に声をかけ、更にその係員が手を上げて制服の駅員を呼ぶのが見えた。
「い、いや、誤解、誤解ですって!」
 保彦は唇を震わせて言ったが、これも失敗だった。誤解ではなく、人違いと言うべきだった。
「ウソつくなってのっ、変態オヤジっ! マジキモなんだけどっ」
 保彦が口を開くほど女の怒りは収まらず、金切声を上げた。
「迷惑行為ですか?」
 急いでやってきた駅員が女に声をかけ、保彦のシャツの袖を掴んだ。
 何すんだ? その拳を見て反射的に振り払おうとしてしまい、更に駅員は力を込めて保彦を制した。ウインドブレーカーもやってきて反対側を固める。
「コイツに触られました」
 駅員に声をかけられて少し落ち着いたのか、腕組みをして立った女は、顎で保彦を指した。
「ち、違います。違うんです」
 駅員に言ったが、あーはいはい、という顔を向けられ、
「……とにかく、駅務室に行きましょうか」
 反対側のウインドブレーカーへ、ちゃんと抑えてろよ、という合図を送る。「――お客様もよろしいですか?」
 同行するように促された女は、それまでの怒りの表情から、えっ、と意外な顔に変わった。
「えっ、私、用事あるんで」
「ですが、被害を受けた方からも事情を聞かなければいけないんですよ」
「いえ……、でも」
 女はバッグから角に円い耳の付いたスマホを出して時間を確認し、「ほんと、もうあまり時間がないんです」
 と駅員に訴えた。
 勝手な女だ。取り押さえられながら保彦はそう思った。
 時間がないのなら、こんなトラブルを起こさなければいいのに。お前だけではない、自分にだって大事な用があるのだ。
「どれくらい、かかるんですか?」
「いや、それは警察の方次第なので、何とも」
「あの、困るんです。今日は絶対、時間通りに行かなくちゃ」
 まいったなぁ、と駅員が肩を竦めたところへ、
「あのう……」
 と傍から声がかかった。全員がそちらを向くと一人の中年男が立っていた。「その人じゃありませんよ」
 がっしりとした体躯にポロシャツとスラックス姿。セカンドバッグを持った白髪混じりの丸刈り。
「ブサ野……!?」
 女が驚いた様子で呟き、すぐに口を噤んだ。
「おぉ、なんだ、……アスコエリアだったのか。そんな格好をしてるから分からなかった。驚いたなぁ」
 中年男が女を見て言った。
 何だって? どうやら知り合いのようだが、男が口にした女の名はすぐに保彦の頭に入ってこなかった。
「どういうことです?」
 駅員が割り込んで中年男に問いかける。
「――あ、私、同じ車両に乗っていたんですよ。私の前にその」
 チラリと女の姿を見て、「派手な髪の人がいるなぁ、って思って見てました。で、ドアが開くと、出口がゴチャつきましてねぇ。私、後ろの誰かの足を踏んでしまって、すみません、って謝ったんですよ。間違いなくこの人でした」
 保彦を指してくる。そう言えば足を踏まれたような気もするが、正直に定かではなかった。大して痛くはなかったのだろうし、謝られたことも記憶にはない。
「要は私、彼女とこの人の間にいたんですよね。だとすると、この人が彼女に、その、迷惑行為ですか? それをしようにも離れてますし、無理に手を伸ばせば私が気づいたと思います。……ひょっとしたらですよ、もうどこに行ったか見失ってしまいましたが、私の斜め前にいた、なんというか、学生っぽい男がやったのかもしれませんねぇ」
 男はそう証言をして、駅員とウインドブレーカーの顔を見合わせさせた。
 どうやら見た目むさ苦しいこの中年は、冤罪を晴らす救世主のようだった。
 保彦は女を見た。相変わらず腕組みをして憮然としているが、長い脚をクロスさせ、ミュールの踵を苛立たしげに床に鳴らしている。その顔は不都合さに曇っていた。
 どうするんですか、とウインドブレーカーに目を向けられて判断に迷っている駅員だったが、
「やっぱり一応……、みなさん駅務室まで来てもらえますか?」
 と言った。
「だから、時間がないんだってば!」
 怒りの向け先を駅員へ変えたところをみると、女には土橋が犯人であるという確証も確信もなくなったらしい。人に濡れ衣を着せておいて、まだキレているのが腹立たしくなってくる。
「なんだ、お前、用事でもあるのか?」
「……」
 中年男に声をかけられて女はうるさそうに頷いた。
「仕事か。……お前、頑張ってるようだなぁ、なんでも最近も雑誌に載ったらしいじゃないか。今日も何か大事な仕事なのか?」


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