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なりすました姦辱
【ファンタジー 官能小説】

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第三章 制裁されたハーフモデル-1

第三章 制裁されたハーフモデル


 保彦は日本橋を目指した。今日から百貨店で北欧フェアが始まる。
 三夜連続で自宅を訪れたが、ベランダのガラス戸が灯りに照らされていることは無かった。チャイムを鳴らしても、電話を鳴らしても反応はない。
 昼間に来た時は近所の者に不審な目で見られたから、むしろ夜の方が寝ぐらに土橋が戻っている可能性が高いし、人も少なく怪しまれずに済むだろうと思っていた。
 人通りが少ないのは確かにその通りだったが、そのぶん通行人は暗がりに佇む中年男を見かけると、怪しみの目を昼間の数倍、数十倍にもして、すぐにでも通報されかねなかった。とても満足には張り込みはできなかった。
 三日も空振りに終わると、最も土橋を捕まえることができると思っていた場所は、今や最も可能性が薄いと思えてきた。
 何度来ても留守。電話にも出ない。保彦からのアプローチを拒んでいるとしか思えない。
 何故なんだ?
 帰りの電車の中で、肉体的、精神的両方の疲労にぐったりとなって揺られていると、或る恐ろしい事が閃いた。
 そんな馬鹿な――。だが、それはこれまで過ごして分かった土橋の暮らしぶり、そしてこの肉体を省察すればするほど、自然な結論として導かれてくる。
 土橋は元に戻りたくないのだ。
 よく考えてみたら、土橋はずっとウダツが上がらずに生きてきたに違いない。四十六歳にして童貞だったことが象徴的に物語っている。
 そこへ突如新しい肉体を手に入れた。二十五歳も若返り、有名大学を卒業見込で前途有望、背も高く端整と言っていいルックス。土橋に無いものばかりではないか。
 これからは武藤保彦として生きていくつもりか? せっかく労力をかけ、危険を犯した末に、性奴隷を得る目前だったのに――
(……愛梨!!)
 大声を上げそうになった。
 そうだ、土橋に無かったものには、愛梨も含まれる。有り余る精力がありながら醜貌のために女に相手にされず、挙句には同僚を脅迫するという罪を犯してでも童貞を捨てたかった土橋の前に、稀有に可憐な愛梨が現れたら……。
(愛梨が危ない!)
 どうして気づかなかったのだろう。
 そう考えると愛梨が呟きアプリのコンタクトに応じないことにも合点がいく。保彦のジョークだと思っているのかもしれない。土橋にそう思わされているのだ。
 愛梨が土橋に犯されている想像は狂おしかったが、姿形は保彦の体なのだから否応にもリアリティがあった。
 そいつは俺じゃない。愛梨を愛している男でなく、可憐な若い女を肉欲の恣に食い散らかそうとしている淫獣だ。
 方針転換をしなければならなかった。
 土橋を追いかけるよりも優先すべきは、愛梨と直に接触して救い出すことだ。こんな姿でまみえれば愛梨は驚くだろうが、そこはずっと愛を育んできた仲、懸命に話せば慈愛に満ちた恋人はきっとわかってくれる。
 日本橋の百貨店であれば平日でも人は多いだろう。見張っていても怪しまれずに済む。百貨店のサイトを調べたら、催事場の入口は上りエスカレーターとエレベーターの降り口に面した一箇所のみ、お誂え向きに隣接して休憩スペースがある。そこに居れば、やってきた愛梨をすぐに見つけることができる。
 朝十時開店だから少し早くに着いてしまうだろう。もしかしたら開店に並ぶ列の中に愛梨を見つけることができるかもしれない。こんな醜い男に成り下がってしまったが、なるべく愛梨に恐怖心を与えないよう、汐里に洗濯させた衣類の中で、少しでも爽やかに見えるものを選んできた。
(……愛梨)
 保彦は吊り革に掴まって、お気に入りに登録している愛梨の呟きの履歴を追った。恋人である保彦についての直接的な話題はないし、リア充自慢をするような愛梨ではない。だが時折アップロードされている画像で、欲しかったマグを買ってはしゃぐ姿や、わざわざ並んで手に入れたお菓子を二人で食べた時の笑顔が思い出されて恋しくなってくる。
 履歴を遡っていくと、愛梨と初めて結ばれた日の呟きがあった。ガラス製のペン立ての写真……。愛梨が保彦のために買って持ってきたものだ。丸みを帯びた細工に穿たれた口へ一本だけペンを挿せるタイプのそれを見ていると、下世話だが初めて愛梨の体に入った時を思い出してしまった。涙を滲ませて保彦にしがみつきながら、破瓜の痛みに耐え、まだ硬い壁は懸命に温かく潤って保彦を包んできた。
(……ん?)
 不意に甘香が鼻腔へ漂ってきた。
(愛梨……?)
 愛梨が使っているフレグランスと同じ香りだった。


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