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つれづれアサシンにっき
【コメディ その他小説】

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つれづれアサシンにっき-2

「…さらばだ、エル・マルコ」
ライフルのスコープを覗き込み、照準を合わせる。氷室ほどの能力があれば、確実に命を奪える状況である。
しかし、何事にも思わぬアクシデントは発生する。例え万全の体勢を整えようとも、この発生を防ぐことは難しい。
「む!?」
そのアクシデントだ。エルの後ろを走る女性。彼女もジョガーらしいが、思わず彼女に目を奪われる。いや、厳密に言えば、走る度に揺れる彼女の胸に、彼の視線が釘付けになる。
氷室心と言えども、所詮は男だ。本能には逆らえないということである。
「……」
鼻血が、彼の鼻の下を伝う。しばし「揺れ」を堪能した後、ふと我に帰った。
「…しまった」
エルは、すでに死角へ入ってしまい、狙撃は不可能だ。

狙撃が駄目なら、接近戦だ。すれちがい様に、ナイフで急所をうがつ。
一見、荒い作戦の様だが、今日は日曜で、場所はショッピングセンター。これほどの雑踏の中であれば、逆に事を起こしやすい。人体のあらゆる急所を熟知する氷室の知識と、一流の技術があればこそ成せる技だ。
エルの行動パターンの情報も得ている。まず、カメラを見る。次にパソコン、スポーツ用品、食品の順だ。現在、彼はカメラの店を出たところだ。このまま真っ直ぐ歩き、すれちがい様にナイフを…。
「あ〜ん、うわ〜ん!お母さん、どこ〜?」
氷室の隣から、大音量で泣き声が聞こえる。見ると、五歳くらいの男の子が、お母さんとはぐれて大泣きをしていた。
「僕、大丈夫?」
氷室の行動は早かった。すぐさま、男の子に話しかける。
「ひっく。お母さんが…ひっく…え〜ん!」
「落ち着いて、お母さんは、どこでいなくなったんだ?お兄さんと一緒に探そう。な?」
「ひっく、うん」
その後、氷室は手をつないで、男の子のお母さんを見つけ出した。すでにエルは帰路についてしまっていたが、氷室には、まったく後悔の念はない。お母さんと出会えて喜ぶ、あの子の笑顔が、いつまでも目に焼き付いていた。

夜。エルは、自身の部屋で仕事をしていた。パソコンで、カタカタと打ち込むその行動を、氷室は窓から監視していた。頭には木の小枝を巻き付けて、右手には拳銃を持っている。このまま彼の頭を撃ち抜くつもりだ。
「…今度こそサラバだ」
厄介な飼い犬は、薬をかがせて眠らせた。隣の家は外出中。絶好のチャンスである。
サイレンサーをつけたハンドガンから、プシュプシュと間抜けな音が出る。
ガラスに穴を空け、エルは赤い飛沫を巻き散らして倒れこむ。
「…終わった」
確認のため、家のドアの鍵を撃ち抜いて、部屋に入った。エルの額には、三発の弾痕が刻まれている。
「…任務完了」
エルは死んだ。ついでのサービスで、リッチのスクープ写真を回収する。

「さすがだな。氷室の名に間違いない」
リッチは、任務完了の結果を聞き、笑みをもらす。
「…いえ、いつも通りのことをしただけです」
「ククク…。さあ、報酬だ。これくらいで構わないかな?」
リッチのデスクの上に置かれたアタッシュケースを、彼の部下が氷室に向けて開ける。中には大量のモナカが、ギッシリ!
「えぇ、充分です」
氷室のお腹が、グゥゥと鳴った。アタッシュケースを受け取り、とりあえずモナカを一つかじる。
「素晴らしい味だ」
おそらく、このアンコは和三盆を使ったものだろう。いつしか食べた、京都の名店と同じ味がした。
「喜んでもらえたようで、光栄だよ。また機会があれば、依頼をしたい」
「えぇ、それは是非」
氷室は、リッチと固い握手を交わし、その場を後にした。そして、エレベーターを降りたあとで、モナカを頬張りながらポケットをまさぐり、携帯電話を取り出す。
ビルを出て、それの通話ボタンを押すと、かん高い電子音がなる。


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