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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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この向こうの君へ-2

実際すずさんは会話に飢えていたらしく、色んな事を話してくれた。仕事の愚痴や一人暮らしを始めた感想、寂しくて休みの度に実家に帰る等々。僕の口調から害はなさそうと判断して話し相手に選んでくれたという事も。
「ごめんね、あたし一人で喋って」
「僕は聞いてる方が好きなんで楽しいです」
それもそうだし、片思いの相手がこんなに親しく接してくれるのが嬉しかった。見た目のせいで大抵の女の子は怖がって逃げてしまう。こんな状況を作ってくれた神様に心から感謝します。
「耕平君って可愛いね」
「はぃっ!?」
顔が見えないとは言え聞き慣れない発言に耳を疑う。
「そーゆうリアクションもだけど、律儀に敬語使ったり素直に話を聞いてくれたりして、可愛い弟ができたみたい」
おとうとっ!せっかく仲良くなれたのにそのポジションは嫌だ。
「耕平君って今何か飲んでるの?ビール?」
「や、僕アルコール全般駄目で珈琲牛乳を」
「ほら可愛い」
体質です!ていうか可愛いで終わりたくない。
こんな僕の思いをよそにすずさんの想像はどんどん膨らんで最終的に僕を『年上のお姉さんに可愛がられそうなタイプ』と言い切った。
「全然違います!」
スーパーをふらついただけで万引きだと思われたり、倒れた自転車を直してたら自転車泥棒に間違われたり、とにかくそんな事が日常的に起こるんだ。
「そうなの?じゃあちらっと顔見せてよ」
「いやっ、僕極端に顔の作りが悪いんで!」
カワイイ系だと思いこんでる人にこの顔は厳しいだろう。
「イケメンだけが男じゃないよ」
「そーゆう事じゃ…」
「でも悪いと言えばさ、このアパートにすごい怖い人いるよね」
「え?」
「一回すれ違った時思いっきり睨まれてダッシュで逃げたもん」
そんな奴いたか?
僕ら以外の住人は一階の二人だけどお互いの部屋に行き来するくらい仲いいし…
「坊主頭で体が大きくてね」
はっとして自分の頭を触った。
「腕に根性焼きみたいな跡が沢山あったの」
根性焼き!?
自らの腕に目をやると、そこには点々と小さい火傷の跡が…
違う!これは溶接の仕事をしているから火花が飛んできただけで、体がデカいのは遺伝だし丸坊主は単に楽だから…っていうか怖い人って僕!?睨んでない、見とれてたの!
「耕平君もあたしもキャラ的に絡まれそうだから気をつけようね」
「ははは…」
乾いた笑いしか出ない。確かに僕は怖いからね、気持ちは分かるよ。体格にプラスして生まれつきの薄い眉毛と綺麗な一重に細い目。夜中に外出すれば職務質問をされ、電車に乗れば誰もが席を譲る。それが僕。だから人にここまで言われても怒るどころか納得してしまうし、僕を可愛い弟と思い込んでるすずさんの夢を壊したくない。話せるようになったできたばかりのこの関係も守りたい。
「ところで耕平君の顔なんだけど」
やばっ
「すいません、寝ます!!おやすみなさい!!!」
急いで部屋へ逃げた。
複雑。嬉しいけど悲しい。内面の僕は好印象なんだろうが問題は外見。自他共に認めるこの悪人面は簡単にどうにかなるもんじゃない。
テレビの音楽番組では爽やかな美少年達が不自然な衣装を着て歌い踊っている。
神様ってズルいよなぁ…
僕の片思いはどうなるんだろう。壁越しの気持ちが届くことを願って僕の一日は終わった。


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