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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(二)-15

「──では、申し上げます。私は、物を買う事で世の為に金を払い、その金は、物を買う金として色んな人に渡る事となり、とどの詰まり、景気を底上げして行くと思っております」
「ほう。詰まり御前は、世の為に贅沢をしとると言うのだな?」
「はい。人々の暮らし向きは暗い物です。父さまの様に“富める者”は、もっと御金を使う等で、周りの景気に気を配るべきです」

 菊代の手紙と言う、思わぬ出来事がきっかけと為ったが、伝一郎は秘めたる思いを、到頭、言ってしまった。
 どんな大目玉を食らうのかと身構える伝一郎。しかし、伝衛門は予想を反して、哄笑を挙げたのだ。
 小さな室内に響く、父親が放つ高笑いの声。伝一郎は、此の様な状況下に晒され、小馬鹿にされてるのかと、胸の内が怒りで熱くなった。

「……成程。で、貴様は儂に、説教でもする積もりか?」

 伝衛門は、薄ら笑いを浮かべて訊き返すが、その目は笑っていなかった。

「何がおかしいのですか?父さまは御存知無いのかも知れませんが、東京では今、住む場所さえ失った親無し子や、※4御貰いさんが、街に溢れてるんです。彼等こそ、先の戦争が原因で有る、不景気が生んだ犠牲者なんですよ」

 一方の伝一郎も、父親の態度が気に入らない。此処ぞとばかりに自分の見聞をひけらかし、此の論争を畳み掛け様とする。

「それで、月に僅か十円の金を用いて、如何程、世の為となった?」
「そんな物が、解るはず無いでしょう。それでも、全く役に立って無い事は有り得ません」

 息子の返答に伝衛門は、口の端を上げて笑みを忍ばせた。

「まあ、良い。精々、貴様の才覚とやらで、何れ程、世の為になるか尽くしてみろ」
「えっ?」
「菊代には、適当に濁しておくから安心せい。小遣いも、今迄通りにしておく」

 伝一郎は、毒気を抜かれた様な顔で伝衛門を見た。間違い無く厳しい沙汰が下され、仕送りが減らされるものと覚悟していた。だが、間違った行いはしていないという自負が有る。だからこそ、此の論争には負ける事は出来ないと持論をぶつけたのだが、伝衛門にあっさりと認められた事で、些か拍子抜けした思いだった。

「──だがな、伝一郎」

 そう思っていた矢先、伝衛門は言葉を繋いだ。

「どうせなら、十円が十倍にも百倍にも成る事を考えてみろ」
「えっ?十倍……ですか」

 伝一郎は、思わず喉を鳴らした。

「そうだ。その金を元手に会社を興し、御前の言う“戦争の犠牲者”とやらを雇い入れろ。儂が御前なら、そうやって救うがな」

 何と、起業家として如何様に振る舞うべきかを、息子に教授したのだ。

「し、しかし……どうやって十円を百円に?」
「そこは自分で考えろ。金なんて、知恵を絞れば如何様にも為るものだ」

 持ち金を、唯、使うだけでは値打ち以上の物は手に入らない。しかし、“金が金を生む仕組み”を考え付けば、何倍もの値打ちに成ると、自らの体験を踏まえた助言を与えた。

(確かに、そうなれば、沢山の人々を救う手立てが可能だが……)

 助言を手掛かりに、早速、何かを導き出そうとする息子の姿に、伝衛門は再び忍笑を見せた。


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