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Fender Rhodes 1971
【同性愛♀ 官能小説】

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後編-2


「はえ…。島津さんちって、大きいんだねぇ…」

車寄せの大きな庇の下で、運転手さんがドアを開けてくれて下車する。
お父さんが会社役員とかなのかな?
広い玄関扉の上の方に、なんか紙が貼ってある。
あれなんて読むんだっけ?

案内された部屋の中央に、立派なグランドピアノが置いてあります。
私は額に手のひらを当てます!

「ちょっと待って⁉自宅にも有るのに⁉そんなに我慢できなかったワケ⁉」
「うるさいっ‼こっち!」

島津さんは顔を真っ赤にして怒ります。
島津さんは広い部屋の隅の方にズカズカ歩いて行って、
ピアノ椅子に乱暴に座ります。

島津さんが向かったのは、
鍵盤が付いているけど、ピアノにしてはずいぶんと小さい。
なんか黒くて古いデザインだ。
昭和臭はしないから、外国製品かな?

「スピーカーが付いてるね…。何コレ?オルガンでも無さそうだし」
「Fender Rhodes 電気式ピアノ。1971年製」

島津さんはぶっきらぼうに電源を入れて、鍵盤に指を沿わせます。
右の、高い音の鍵盤の上で、手をスキップさせます。
オルゴールのような音色。クリスタルみたいに透明な音。

「仕組みはエレキギターに近いの。
鍵盤を弾くと、ハンマーが金属の棒を叩いて、
その振動をピックアップが拾って、電気的に大きくするのね」
「ギターは弦だもんね。あれ、ピアノもか?」
「そう。間の子ね。エレキギターはピックアップが二つか三つだけど、
このエレキピアノは鍵盤ごとに73個もあるの」
「ゲッ。鍵盤って73個もあるんだ?」
「アコースティックピアノと同じ、88鍵のモデルもあるのよ」
「よくそんなに多くのボタンを間違えずに押せるね?すごくない?」
「あはは、そういえばそうだね」

島津さんは口に手を当てて品良く笑います。
躾がいいんだなぁ。
鍵盤に向かっている時は上機嫌なんですね。
いろんな意味で。

島津さんは、中ほどの鍵盤から低い音のほうへ指を動かします。
少しこもったような太い音が出る。ベースギターみたい?
いわゆるピアノとは違う音だ。

「元々、アコースティックのピアノを弾いてたんだけど。あっちね」

グランドピアノの方を指差します。

「お父さんがオーディオで聴かせてくれたRhodesピアノの音がとても良くて。
中でもこのFender Rhodesモデルの音が、私、気に入っちゃって」

島津さんは、広い鍵盤の端同士で和音を出します。
Fender Rhodesを抱くように。

「Fender Rhodesを弾きたい、って言ったら、
智美はお父さんと趣味が合うな、って喜んで探してくれたの」

いつの間にか曲が始まってます。
自然過ぎて分からなかった。
島津さんは普通に弾き語りをします。
すごい。

「最初に見た時は凄いボロで、音も出なくて。
作られた年を見たら、お父さんと同い年だったの」
「えーと…。40代後半だ」
「専門の業者さんにちゃんと直して貰ったら、とってもいい音が出て、二人で喜んで…」

島津さんは、指先を鍵盤に、叩きつけるように演奏します。
今までと違って音が歪みます。
エレキギターにエフェクターをかましたみたいに。
同じ楽器なの?ってくらい音が変わります
Fender Rhodesは、身を捩るように唸り、叫びます。

不意に演奏が止まります。
鍵盤に涙が落ちます…。
島津さんは両手で顔を覆います。

「お父さんが病気で死んじゃったの…」

私は、島津さんの背中に静かに手を置きます。

「いなくなっちゃった…。
いつも喜んで聴いてくれたのに…。もう聴いて貰えない…」

私は島津さんの頭を胸に抱きます。
島津さんは私の胸の中で泣きじゃくります。

家族が亡くなったのは本当の話で、お父さんだったんだ…。


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