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アダルトビデオの向こう側
【熟女/人妻 官能小説】

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8.家族-4

 荒い息を整えながら、香代は泣きそうな顔で拓也の顔を見つめ、指で彼の前髪を掻き上げた。
「いっぱい汗かいて」
 拓也はふっと笑った。
「君だって」

「怒らないでね」
 香代が言った。
「え? 何? どうしたの?」
 香代は拓也の鼻を軽くつつきながら照れたように言った。
「拓也は私の亡くなった主人に似てるの。特に笑った顔が」
「そうなの?」
「それに抱き方も」
「それは光栄だな」
 拓也は嬉しそうに笑った。
「嫌じゃないの?」
「全然。だって君の好みってことでしょ? 僕」
「うふふ、そうね」

「ご主人のこと、今でも思い出すことある?」
「忘れることは……ないわね」
「僕はご主人の代わりになれる?」
「それは嫌」
 香代は言った。拓也は意外そうな顔をした。
「彼のことを忘れない、っていうのは、つまり、」香代は目を閉じて一つため息をついた。「心の中の箱にしまってある感じ」
「箱?」
「アルバムって感じかな」
「アルバムか……」
「例えばちっちゃかった将太の記憶と同じ感じ」
「将太君の?」
「だって、亡くなった主人と会話したり、抱かれたりすることはもうないけど、それは幼い将太と手を繋いだり、あの子を抱き上げたりするのと同じでしょ? 今はそんなことできない」
「なるほど」
「だから私、貴男を前の主人の代わりなんて思いたくないの」
「そうか」
 拓也はほっとしたように微笑んだ。

「ごめんなさい、変なこと話題にしちゃって」
「ううん」
 拓也はまた香代についばむようなキスをした。
「拓也に抱かれて、一緒に登り詰めるの、最高にいい気持ち」
「僕もだよ」
「あ……」
 香代が小さく言った。
「抜けちゃう……」
 拓也も言った。

 香代の身体から力尽きた拓也のペニスが抜けた。

 枕元のティッシュを取り出して、秘部を拭った香代は、それをゴミ箱に捨てて再び仰向けになった。そして身体を起こした拓也に両手を伸ばした。
 「まだ裸のままでいて、お願い」
 拓也は照れたように笑って、そのまま香代の横に、同じように仰向けで横たわった。

「私、拓也の裸が大好きなの。すっとそのままでいて欲しいぐらい」
「いつもこんな恰好で? 君は僕にAV男優になれとでも言うの?」
 拓也は香代の額をつついた。
「素質あるんじゃない?」
「無理だね。演技で女性を抱くなんてまっぴらだ。それに、」拓也は自分の胸を人差し指でつついた。「このままじゃせっかく頂いた『すずかけマイスター』のバッジがつけられないよ」
「それもそうね」
 香代は笑った。

「拓也は、」香代は身体を横に向けた。「今までつき合った人、いなかったの?」
「学生時代はいた。彼女」
「どんな人?」
「君に似てた、って言って欲しい?」
「別に」
 香代は少し拗ねたように言った。
 拓也は小さく笑った。

「あの頃はいつもムラムラしてて、とにかく誰かとエッチしたくてさ、その子が僕にコクってきたからチャンスだと思って付き合い始めたんだ。それなりに可愛い子だったし」
「下心満載の大学生だったのね」
「たいていの男ってそんなもんじゃないの?」
「で、どうして別れちゃったの?」
「趣味が違う、価値観が違う、金銭感覚が違う、いろいろ違うことが見えてきてね」
「恋人同士なら解り合おうとするもんでしょ?」
「そのレベルを超えていた」
 拓也は自嘲気味に笑った。
「半年も続かなかったからね。ま、僕のせいだけど」
「そうなの?」
「カラダ目当てだってことに気づかれたんじゃないかな」
「仕事始めてからは?」
「ああいう仕事をしてると、恋人を作る気にはならなくなる」
「どういう意味?」
「女性不信に陥るんだよ。世の中の女の子がみんなAV女優に見えてくる」
「わかる気がする……」
 拓也は香代の髪を撫でた。
「だから僕が独り立ちしてから君が最初の彼女っていうわけなんだ」
「私だってAV女優だったのよ?」

「違うね」
 拓也は眉を上げた。

「君は最後までAV女優になれなかった」
 香代は黙って拓也の目を見つめた。
「僕は知ってる。香代が自分を忘れてカヨコになったことは一度もなかった。ずっとカメラ越しに見てたからわかるんだ」
「拓也……」
 拓也は香代の身体をゆっくり抱きしめ、大きく息を吸って髪の匂いを嗅いだ。
「君はいつも自分を見失ってなかったってことだよ。だから僕は惹かれた」
「ありがとう、拓也」
 香代の声は震えていた。
「香代がAV女優を続けるうちに、もし、将太君や亡くなったご主人のことを心の箱の外に捨ててしまったりしていたなら、僕は君を好きになることはなかっただろうね」
 香代は拓也の身体を抱き返し、その細い腕に力を込めた。


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