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From Maria
【ホラー その他小説】

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From Maria-4

ベッドへ入る前、僕は必ず携帯電話の電源を切るようにしている。理不尽なタイミングで訪れる電話やメールで、眠りの世界から現実へ引き戻されたくはなかったのだ。バイブ機能に切り替える、という考えはなかった。例えバイブにしたとしても、空気を震わせるわずかな振動で、目覚めることは、まず間違いない。僕はそういうタイプの人間だった。 だから目覚めに合わせて携帯電話の電源を入れセンターへ問い合わせると、僕が寝ている間に送られてきた未開封のメールが、たんまりと手元に届く。たいてい、ほとんどが裡里からのものなのだが、しかし、その朝は違っていた。

『一度は寝たんだけどね、なんか起きてから眠れなくなっちゃったよ。目が冴えた。今なにしてる?私は部屋の窓開けてみたよ。寒いね、外。当たり前か。もう秋だしね』

『返事ないっていうことは、夢の中かな。くすん(泣)ちぇ。ちょっと期待していたんだけど。結構早寝なんだね。諦めて私も寝るよ。おやすみなさい』

『ぐっもーにん。おはよう。起きた?今日はいい天気になるらしいよ。どこか出掛けようかな。偶然、あなたとばったり会えたりしてね。それじゃあ、朝ごはん食べまーす』

これらはいずれも、マリアという人物から送られてきたものだ。他にも何通かあったのだが開封する気にもなれず、そのまま削除してしまった。嫌な朝だ、とベッドから抜け出しながら、僕は呟いた。
昨日、自分の携帯電話に『maria』という名前と、アドレスがしっかり登録されていることを確認した僕は、再びゲームセンターのカウンターへ足を運んだ。
そこには僕に携帯電話を渡してくれた店員の姿はなく、メダルを数えている若い女の店員しかいなかった。僕の落とし物を届けた人間を知りたかったのだが、残念ながら、それは出来なかった。
こんな悪質ないたずらを、どこの誰がやっているのか。それを特定することは難しい。迷惑メールを受信拒否するという手段もある。しかし僕があえてそれを設定しなかったのは、やばい、と感じたからであった。具体的に何がどうなるかは分からない。しかし、尋常な内容ではないメールから、体臭みたいに滲み出る常識の域を脱した気配を、僕の脳は悟っていた。拒絶は、まずい。

「尚喜、今日は携帯をいじらないの?」
午後の講義の最中。例のごとく机に突っ伏した態勢のまま、顔だけを僕に向けて裡里が言った。朝からずっと眠りこけていたくせに、どうして僕が携帯をジーンズのポケットから取り出していないことを知っているのだろう。 「充電が切れたんだ」
寝ぼけた彼女の眼を見ながら、僕は平気でウソをつく。
「そう」
つまらなそうに呟くと、裡里は再び顔を伏せた。長い漆黒の髪の毛が、彼女の背中で乱れ広がっていた。僕は向き直り、再びペンをとる。さすがに黒板をノートに写す気にはなれなかったが、一応、講義はさっきからきいている。僕のすきをつくように、メールの禁断症状が、今朝から切っている携帯電話の電源を早く入れろと囁いた。しかしセンターに問い合わせしても、きっと手元にくるのは特定の人物からのメールに違いなく、それを考えると、とてもではないが携帯電話をポケットから取り出そうという気にはなれない。
講義が終わると裡里は計ったようなタイミングで目を覚ます。天気もいいし今日は食堂でサンドイッチと飲み物を買って、外でランチをしよう。いつもなら、適当に何か買って階段で済ませようとする彼女が。まさか自分から外へ出ようと提案するとは、珍しいこともあるものだ。
裡里の希望通り、僕らはサンドイッチを二人分購入し、オレンジジュースと烏龍茶を自動販売機から買って、開けっ放しのガラス戸からキャンパスへ出た。雲一つない快晴でも、さすがに少し肌寒い。柔らかい風が伸びた芝生を揺らす度に、裡里は目を細めて言った。 「こういうのを秋晴れと呼ぶのね」


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