投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

父の温もり
【寝とり/寝取られ 官能小説】

父の温もりの最初へ 父の温もり 1 父の温もり 3 父の温もりの最後へ

父の温もり(前)-2



「ケンジさん、今日は誘っていただいてありがとうございます。良かったのかな……あたしなんかと……」
 夏輝は、右手にワイングラスを持ったまま、テーブルをはさんで向かい合ったケンジに言った。
「気にしないで。夏輝ちゃんも、こうして外でゆっくり食事をすることなんか、なかなかできないんじゃない?」ケンジは温かく優しい目を細めて言った。「でも、僕こそ良かったのかな? 今になってこんなこと言うのもなんだけど、僕が夏輝ちゃんと二人で食事したりして。修平くん、怒らないかな?」
「いいえ、そんなこと。あたしがこのことさっき電話で話したら、行って来いよ、気分転換に、って言ってくれました」
「そう。心が広いね、修平くん」ケンジはまた柔らかく笑った。
「そ、そうですね」夏輝はうつむいて少し赤くなった。そして皿に載せられたタコスを手に取った。
「こんな料理で良かった?」
「とっても美味しいです。ここ、多国籍料理の店なんでしょ?」
「ラテンアメリカ系だけどね。そのワインもチリ産なんだ。安いけどうまいでしょ?」
「チリ産? そう言えばイタリアワインとはちょっと違う味ですね」
 おお! とケンジはうれしそうな声を上げた。「夏輝ちゃんもワイン通なんだね」
「い、いえ、あたし、修平といっしょに外食するときはイタリアンが多くて」
「そうなんだ」ケンジはグラスを手にとり、目を細めてそのビロードのような赤い酒を口にした。


「夏輝ちゃん、」ケンジがコーヒーを飲む手を休めて言った。「今、はっきりさせておきたいことがあるんだ」
「はい?」夏輝はデザートのラム酒のかかったアイスクリームを食べる手を止めた。
「食事代は僕が出すから」
「え? そんな、だめです、あたし、」
「これは僕の役目。君を誘った僕のね」ケンジは微笑んだ。
「でも、」
「もちろん君に借りを作らせるつもりはない。だから、ここは僕に甘えてくれないかな」
 ケンジの柔らかな笑顔は、夏輝がそれ以上食い下がることを許そうとしていなかった。
「わかりました」
「アイスクリーム、溶けないうちにどうぞ」
「すみません……」夏輝は申し訳なさそうに言って、スプーンを持ち直した。

「あたし……」
 夏輝が手のスプーンを止めて、アイスクリームの器を見つめながら小さく口を開いた。
 ケンジは少し首を傾けて夏輝を見た。
「こうしてケンジさんと食事をしてると、まるでお父ちゃんと一緒にいるような感じがします」
「そう」ケンジは少し寂しげに微笑んだ。
 夏輝は顔を上げ、決心したように言った。「ケンジさんのこと、あたし、お父ちゃんだって思ってていいですか?」
 ケンジは手に持っていたスプーンを器のそばに戻して、少し身を乗り出し、にっこりと笑った。
「もちろん」
 夏輝は恥じらったように顔を赤らめた。「ありがとうございます」
「僕なんかでよければ」
 ケンジの笑顔はひどく優しく温かだった。夏輝は喉元にこみ上げてくるものを感じて、少しだけ残っていたアイスクリームをスプーンですくった。

 空になったアイスクリームのガラスの器のそばに置かれたコーヒーカップを手にとって、夏輝は両肘をテーブルに置いた。「あたし、お父ちゃんに抱かれたり、キスされたりする夢を時々みるんです」
「そうなの?」
「はい。その時はあたし、ちっちゃい子どもで、お父ちゃんはあたしを抱き上げてぎゅって抱きしめて額にキスしてくれるんです」
 夏輝はそう言いながら自分の額を指さした。

 夏輝の父、一樹は、夏輝が産まれた日に、病院へバイクを急がせている時、交差点で信号無視の軽トラックと衝突して帰らぬ人となったのだった。

「一度も抱かれたことなんかないのに、夢の中のお父ちゃんの腕は逞しくて、抱いてくれる胸はとっても温かくて、あたしとっても癒されるんです」
「素敵なお父さんじゃない。今でも彼は空から君に愛情を贈っている、っていうことなんじゃない?」
 夏輝はふっと笑った。「そうかもしれませんね」

 夏輝がコーヒーを飲み干して、カップをソーサーに戻したことを確認して、ケンジは背筋を伸ばした。
「さて、もう遅いから帰るとしようか」
「そうですね」
 レストランの払いを済ませると、ケンジはドアを開けて先に外に出てから夏輝を待った。


父の温もりの最初へ 父の温もり 1 父の温もり 3 父の温もりの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前