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「エースパイロットの危機」
【SF 官能小説】

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「エースパイロットの危機」-1

青空に太陽がまぶしい──
 タチバナ ケイ連邦軍少佐はコクピットのキャノビーから差し込んでくる日輪の光をまぶしげに見上げた。コクピットには光量をシャットアウトしているので目をやられることは無いのを知りつつも、すぐに視線を地上へと逸らす。
 彼女の首の動きを真似て、ケイが搭乗する機体も首の角度を修正する。その全長20メートルの巨人から見た視界が、コクピットのキャノビー全体に広がる。
 二足歩行型特別攻撃機「DOLE」、その連邦軍エースパイロット仕様の機体「バリアント」は、今までケイが搭乗してきた連邦軍の機体よりもずっと反応がいい。
 パシフィック連邦とエウロピア帝国が戦争に突入してから5年。当初は軍事国家である帝国に対して技術的に劣勢にあるとされていた連邦軍も、ようやく実戦レベルで対等になりつつある。DOLEも、開戦当初の連邦軍のものはいずれも小型で低火力、薄っぺらな装甲と、帝国軍将兵からの嘲笑の的であったが、今では彼らを凌駕する高性能機がロールアウトしつつある。
 ケイは連邦軍最強のエースパイロットとして、真っ先に高性能機を与えられていた。連邦内シドニー工廠で製造された一号機。まだ塗装もされていない銀色の機体に、ケイは自分のパーソナルカラーであるクリムゾンレッドに塗り、使用しているのだ。
 新式の神経接続の感度は良好。ケイが思った瞬間に、機体は反応する。今まで数秒のタイムラグが当たり前だった連邦軍の機体とは思えない。
 DOLEの操作は、パイロットの神経と直接接続して行われる。かつては脊髄に直接探知コードを差し込んだりしていたのだが、今ではもうパイロットスーツによって自動的に検知する。それは薄手の首から下の全身にフィットしたレオタードのようなスーツである。ケイは赤と白を組み合わせたスーツに18歳のほっそりとした身体を包み込み、それが汗によってほんのりと濡れている。右胸には彼女のネームプレートと少佐の階級章がマーキングされていた。
 開戦当初の帝国軍の奇襲により、大人の連邦軍パイロットの多くが戦死している今、学徒動員によってケイもまた14歳の若さでパイロットとして徴兵されていた。もっとも、神経接続は年齢によって感度が低下してしまうので、若いほど扱いやすくなる。パイロットの年齢は20歳をピークに、そのマシーンとの連携速度は急速に低下するとされていた。
 そのため、ケイのような18歳でのパイロットは、両軍ともに珍しくはなかった。
 ケイは地上の様子を見渡す。なだらかな丘陵が続く。キャノビーの下にはレーダー表示が重なり合っていて、そこには敵部隊の存在は無い。さらに機体の調子もビジュアル表示されている。すべてオールグリーン。問題なかった。
 彼女を含めた連邦軍部隊が展開している森林地帯は、北米戦区でもとりわけ激戦地となっていた。ケイは新兵のうちにここに送られてから、多くの仲間を失い、それ以上の敵を殺してきた。今では彼女は連邦軍北米派遣部隊から、勝利の女神として知られている。
 敵もまた──ケイを討ち取ろうと、何度と無くDOLE部隊の襲撃をしてきたが、いずれも彼女の撃墜スコアを増やすのみであった。もう少しで戦争初の三桁台エースに彼女は突入しようとしている。
「どうやら、ここには敵部隊はいないようね」
 ケイは独りごちると、足に力を込めてジャンプするイメージを浮かべる。バリアントは素早く反応し、脚部のブースターを全開されて飛翔する。その動きは軽やかで、妖精が舞うようであった。彼女の乗るバリアントは女性用パイロットの為に作られたタイプで、神経接続したパイロットが操作で違和感を感じないようにと外見も女性型をしている。胸の膨らみの中には、増補タンクが内臓されており、男性用のものよりも稼働時間が延長できるようになっている。さらに、腰回りには、スカートアーマーが装備されており、股間部内側にあるコクピットルームをガードするようになっていた。
 一瞬、森林によって遮られていた視野が開けて、遠くまで見渡せるようになる。遠くの方で爆発の煙が多数あった。どうやら帝国軍と連邦軍が激戦を繰り広げている最中のようだ。
 着地。
 軽い衝撃が機体の脚のショックアブソーバーを経由して股間部内側のコクピットルームへ到達し、シートに身体を預けるケイを揺らす。彼女の黒い肩までの髪がささやかに揺れる。
「ケイ少佐」
 通信ウィンドウがキャノビーの右斜め下に表示され、そこに白と青を左右に組み合わせた軍服のオペレーターの男が顔を見せる。
「敵勢力圏内に突出しすぎです。味方の援護可能な地点まで後退してください」
「ちょっと、まだまだ狩りは始まったばかりよ。もう少し遊ばせて頂戴」
「ですが……」
 オペレーターの顔が突如としてノイズで歪んだ。ケイは唖然としてスクリーンを見る。


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