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可愛い弟子
【ロリ 官能小説】

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見えない正体-5



3代目芽室による、血の粛清が始まったのは、突然のことだった。
まず、阿宗会20団体の主だった組長が、一堂に集められた。
目的は、次期後継者選び。
誰もが、入り札による投票によって4代目は選ばれるのだと思っていた。
だが、芽室は突如として、速見の4代目襲名をその場で発表する。

これには、宗形閥の組長たちも、さすがに驚いた。
突然の暴挙としか言いようがない。
当然のごとく、宗形閥の組長たちは猛反発して、喧々囂々(けんけんごうごう)の言い争いとなった。

宗形閥の急先鋒は、青森市内で古くからテキ屋をまとめていた老舗の香具師集団「円組」の組長、織笠実である。
織笠は、まだ四十にもならない若き組長であったが、その人徳には定評があり、厚い人望によって、宗形閥が推す次期4代目候補でもあった。

織笠は若いだけに、4代目ともなれば、長期政権になるのは、まず間違いない。
芽室は、なんとしても、それだけは避けたかった。
まだ引退するつもりもなかったが、長年患っていた糖尿により、もはや、体は言うことをきかなかった。
ならば、まだ影響力のあるうちに自分の手で後継者を決めておきたい。
それが、芽室の腹の内だった。

シナリオは、最初から用意してあった。
もちろん、その為の準備も抜かりなくしてあった。
あとは、その時を、待つばかりだった。

結局、話し合いは物別れに終わり、業を煮やした織笠は、もはやこれまでと、阿宗会からの脱会を、その場で宣言する。
織笠は、立ち上がり、仁王立ちになって、かつての盟友、そして、これからは骨肉の争いをするであろう敵手、芽室を見下ろした。

「命運を分かち合うのも、もはやここまで!
 我は天に背かず!
 我を信じ、我に従い付いてくる者たちと共に、我が道を行く!」

威風堂々たるものだった。
阿宗会の中でも一番若い組長であったろうに、数いる組長を押しのけて、その場で、もっとも威厳を放っていたのは、紛れもなくこの織笠だった。

宗形閥の組長たちは、この若き領袖の勇ましい姿に、明るい未来像を期待したかも知れない。
誰もが、次に起こる事態など、予想もしていなかった。

織笠が、脱会宣言するのを待ち構えていたかのように、突如、凶刃が織笠を襲う。
黒い影が、背後から猛然と織笠に突進し、織笠の身体がぐらりと揺れた。
あまりにも突発的な一瞬の出来事に、皆、何事が起こったのかわからなかった。

織笠の目が見開かれ、口元から断末魔のうめき声が洩れた。
口の端から、だらりと血が溢れだし、織笠は何かを掴むように、腕を宙に突き出すと、そのまま力尽きたように倒れた。

織笠のいなくなった空間に立っていた男。
血まみれのドスを握りしめ、ハアハア、と肩で息を継いでいた。
その男の顔をはっきりと確かめて、皆、息を呑んだ。
なんと、織笠を背後から刺し貫いた刃を握っていたのは、それまで織笠の後ろで、じっと事の成り行きを見守っていた円組の若衆頭、黒滝英次だったのである。

「あ、阿宗会に……弓引く者は……す、すべて敵だ……。」

黒滝の声は震えていた。
声だけではなく、血塗れのドスを握る手も、畳を踏ん張っている両足も、身体のすべてを震わせながら、黒滝は呆然とした顔でその場に立ち竦んでいた。

「おどりゃあ!!!」

たちまち黒滝の体に、若衆たちが群がった。
皆、手にはドスを握りしめていた。
衆人環視の中で、親殺しの大罪を犯したのである。
どんな、言い逃れもしようがなかった。

若衆たちが離れると、黒滝の体には、まるでドスが生えたように、何本も突き刺さっていた。
黒滝は、その場で絶命した。

宗形閥の組長たちは、その光景に恐れおののいた。
それが最初から仕組まれた茶番であることなど、百も承知していた。
会場に入る前に厳密なボディチェックがされていた。
だから、この場に刃物を持ち込めるわけがない。
にも関わらず、黒滝のドスは、ボディチェックをすり抜けた。
若衆たちは、当たり前のように、懐からドスを取り出した。
誰かが、彼らにドスを与えたのだ。
それは、言わずとも知れていた。

明日は、我が身……。

その場にいた組長たちの脳裏にあったのは、その言葉だけだったろう。
誰もが声を失っていた。
芽室は、勢いに乗って、次の手に打って出た。

「織笠組長には、大変気の毒なことをした。
 しかし!この円組の若衆頭が義憤に立ち上がったのも無理のない話である。
 阿宗会は、平和共存のうちに、ここまでの繁栄を培ってきた。
 しかるに!個人的怨嗟によって組を割って出るなど言語道断である。
 織笠組長は、阿宗会からの脱会を宣言した!
 これは、阿宗会に仇なす行為に等しい。
 だが!この命をかけた勇気ある若者の意を汲み取って、
 黒札による破門だけは許してやりたいと思う。
 今後の円組の処遇は、この速見に一任したいと思うが、
 皆の衆に反対の者はあるか?」

白々しい詭弁でしかなかった。
円組に対する懲罰の決定権を速見に与える。
それは、すなわち4代目を承認したことになる。
しかし、血の海の中で事切れた織笠と、そこに折り重なるように倒れる黒滝の死体を目の前にして、誰に何が言えただろう。

ふたりが、呆気なく殺されたのは、紛れもない事実だった。
この場において芽室に対し、異を唱えることは、自分の将来が目の前の光景と、まったく同じになることを物語っていた。

皆、声を殺していた。
怒りに拳を握りしめながらも、俯かせた顔を上げた者は、ひとりもいなかった。
ここに、仁義は死んだのだ。


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