過去のない女-6
――青森某所――
「オジキ……少しは寝たんですか?」
「ああ?なんだ、トリ、俺の身体を心配してくれてんのか?」
そりゃ心配もしますよ。
ムショから出たばっかで、こんなところに入り浸り。
放免祝いにも出んと、ガキを相手に3日も遊びまくってたんじゃ、若頭だって終いにゃキレますよ……。
しかし、相変わらず、すげぇ身体だな……。
ムショん中では、ただ遊んでたわけでもなさそうだな。
「悪いが、それ取ってくれ……。」
俺の話聞いてますか?
ほんとにしょうがねえな……。
「コレですか?」
「オウ、それだ……さあ、タカコちゃん、ちょっと痛いことしようねぇ。ちゃんと我慢できたら、また、ご褒美あげるからねぇ……。」
アメの次は本物のムチかよ。
相変わらず、やることにソツがねえな……。
ちっ!こんなことならミノとハツを行かすんじゃなかった。
残ってんのは、タンだけか……。
「おい、タン!こっち来い。」
「へい!」
「今からオジさんが、ガキの仕込み方見せてくださるから、しっかり勉強しとけ。」
「へい……」
ピシィッ!
「キャウゥッ!!」
早速、始めやがったか。
「ほーら、ちゃんとおしゃぶりするんだよぉ。痛くても放しちゃだめだ。痛か
ったら、もっと思いっきり吸い込んでしゃぶるんだよぉ。そうしたら、痛いのも我慢できるからねぇ。もし、歯を立てたりしたら、もっと痛いのが飛んでくよぉ……。ほーら!」
ピシィッ!!
「フォゥッ!!」
「おお!上手だよぉ。今のはすごく気持ちが良かった。やっぱりタカコちゃんは、イイ子だねぇ……。今度は、つづけていくからねぇ。ほら!」
ピシッ!!ピシィッ!!
「フォウウウッ!」
「……アニキぃ……あんなコトして、大丈夫なんですかい?……傷モンにすると足下見られまっせ……。」
「バカかオメェわ。よく見てみろ、ケツをひっ叩いちゃいるが、赤くなってるだけで傷なんか残ってねえだろ。ちゃんと加減してやってんだよ。」
「そうっスか?でも、なんかすげえ音がしますけど……。」
「手首返して、音だけデカくしてんだよ。そのうち見てろ、音聞いただけで震え上がるようになるから……。」
「でも、それじゃ怖がらせるだけで、かえって逆効果なんじゃ?……」
「ほんとにオメエはバカだな。よく見てみろ。しっかり頭撫でてやってんだろ。ああやって、ひっぱたきながら頭撫でてやってるとな、少しでも気に入ってもらおうとして、必至にするようになるんだよ。見てみろ、あのガキの顔。」
「まあ、確かに……すげぇ夢中で咥えてますわ……。」
「そのうち、何されても、よがるようになるぞ……。」
「へぇ……、でも、そりゃクスリのせいなんじゃ?……」
「オジキは、もうクスリなんか使っちゃいねえよ。ガキを仕込むときにクスリ使うのは最初だけだ。痛がらねえよにな。慣れてきたら、もうクスリなんか使わねえんだ。じゃねえと、オメェたちみてえに、むやみやたらにヤク中にしてたら、デク人形が出来るだけで、芸のできる犬には、ならねえだろうが」
「はぁ……」
「あのガキは、この3日間で、しっかりオジキからヤキも入れられたはずだ。それこそ死ぬような目にも遭ったろうよ。だが、オジキがすげぇのは、そこからだ。
死ぬほどヤキ入れたあとは、それ以上によがらせて狂わせるんだ。今みてえにイイ子だ、イイ子だって念仏みてぇに耳元で唱えながら、よがらせまくるんだよ。死ぬような目にあっただけに、ガキは、必至にその言葉にすがりつこうとする。それこそオジキに褒めてもらいたい一心で、何でもするようになるって寸法さ……。」
「へぇー、たいしたもんスね。」
「ああ、たいしたもんさ。だが、もっとすげぇのは、それだけじゃねえ。オジキが仕込んだガキは、逃げなくなるんだよ。これが不思議なくらい逃げねえんだ……。」
「どうしてですか?」
「さあな、俺にもわからん。だが、オジキに仕込まれたガキどもは、必ずオジキのところに帰ってくる。まあ、オジキのガキどもへの執着ぶりは、凄まじいものがあるからな。その怨念にでも取り憑かれるんだろうよ……。」
「へぇー。」
「オメェ、さっきからバカの一つ覚えみてえに、へぇー、ばっかり繰り返してるが、ちゃんとわかってんだろうな?オジキが帰ってきて、これから益々ガキどもを増やしていかなきゃならねえんだぞ。今みたいに、オジキひとりにまかせっきりってわけにゃいかなくなるんだ。」
「へぇ……。」
「………………まあ、いい。滅多にゃ見れねえもんだから、この際、しっかり拝ましてもらっておけ……」
「へぇ……。」
「…………………………」