投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

DEPARTURES
【純愛 恋愛小説】

DEPARTURESの最初へ DEPARTURES 1 DEPARTURES 3 DEPARTURESの最後へ

DEPARTURES-2

どうか、春菜が僕を待っていてくれますように。荷物を手放し、周囲へ視線を巡らせた。厚着をした人の数に圧倒されながら、彼女の姿を探す。ばかみたいにキョロキョロしながら、二十分も、その場に立っていただろうか。腕時計へ目を落とすのも、五回目を数えた頃だった。不意打ちみたく、言いようのない絶望感が僕を貫いた。ワックスで磨き上げられた床から、高さのあるガラス張りの天井まで、意識がぐらりと揺らいだ気がした。カノジョハ、イナイ。ココニハ、コナイ。漠然とした事実だけが、吐き出された唾のように、僕の足元にあった。そうだ、と心の中で呟く。くるわけないじゃないか。あいつが寂しい思いをしている時、僕はそばにいてやれなかった。そんな僕が、彼女にあれこれ望むなんて、あまりに虫がよすぎる。
……どうしたらいいだろう、僕は。これからどうしたら。うなだれかけたところで、とん、と背中に何か当たった。それが手のひらであることは、すぐに気が付いた。そして、誰のものであるかも。
コートごしからでも分かる。懐かしい、体温。僕はゆっくりと振り返り、目の前に立つ彼女を見つめた。残念ながら涙でぼやけてしまっていたけれど、久しぶりに見る、春菜の笑顔だった。
「裕哉。髪、伸びたね」
彼女の人差し指が、そっと僕の前髪に触れる。
「私と、同じくらいになった」

曇り空を仰ぐと、桜の花びらみたいな白いものが、ゆっくりと降りてくる。外は珍しく雪が降っていた。
「今朝から降り始めたんだよ」
肩を並べて歩きながら、春菜は言った。溶けた雪がアスファルトを黒く濡らし、所々に小さな水たまりを作っている。それを器用に避けながら、僕らは駐車場に停めてあるという彼女の車を目指した。春菜に会ったら、すぐに今までのことを謝ろうと決めていたのだが、実はいまだに言い出せずにいた。なんとなく、それを口にしてはいけないような空気が、そこにはあった。瞳に映っては消えて行く無数の雪を見ていたら、ふっと胸の内にあったメロディーが口からこぼれた。彼女が目を丸くして、僕を見る。そして、聴いたことある曲だ、と、はにかむように笑った。
「名曲だよ。春菜君」
腰に手をあてて、胸を張って答える。その隙間へ自分の腕をからませて、一緒に歌おうと彼女が提案した。ほほ笑み返し、僕は頷く。いいよ。歌おう。二人で一緒に。
二人で聞きなれたメロディーを小さく口ずさむ。
……雪、積もるといいね。白い息を吐き出しながら呟き、春菜が空を見上げた。そうだな、そう返事を返すかわりに、僕は春菜の額へ、そっとキスをする。


DEPARTURESの最初へ DEPARTURES 1 DEPARTURES 3 DEPARTURESの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前