投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『月陽炎~真章・銀恋歌~』
【二次創作 官能小説】

『月陽炎~真章・銀恋歌~』の最初へ 『月陽炎~真章・銀恋歌~』 40 『月陽炎~真章・銀恋歌~』 42 『月陽炎~真章・銀恋歌~』の最後へ

『月陽炎~真章・銀恋歌~』-41

42 ぽちゃん……。

手拭いを絞る水音に、悠志郎はハッと目を覚ました。

……どうやら夢を見ていたらしい。

閉じていた瞳をゆっくりと開き、ぼんやりと視界が回復してくるにつれ、意識も少しずつ戻って来る。

『あ、お目覚めのようですね』

聞こえてきた葉桐の声に、悠志郎は慌てて身体を起こした。

『しまった!申し訳ない。それで……美月の容体は?』

『相変わらずです……』

葉桐の言葉に美月を見ると、まだ苦しそうに身を喘がせ続けている。

医者に処方してもった薬も効かず、快復の兆しすら見せていない。
未だに額を冷やし続ける程度のことしかできないでいるのだ。

『今は何時ですか?』

『もう夕方ですよ』

葉桐の言葉に障子の外に目をやると、既に空は赤く染まっており、半刻も経たないうちに日が暮れようかという頃だ。

『夕食の支度もできています。お疲れでしょう……この後は私が引き継ぎますから、悠志郎さんは部屋へ戻ってお休みください』

『いえ……』

そう言い掛けた悠志郎は、室内に柚鈴の姿が見えないことに気付いた。
あれほど頑固に美月の側から離れようとしなかったのに……。

辺りを見まわす様子で悠志郎の疑問を察したのか、

『柚鈴でしたらよく眠っていたので、そっと部屋へ運んで寝かせてあります』

葉桐は苦笑しながら言った。

『そうですか……』

昨夜一晩、ずっと美月についていたのだ。
かなり疲れているに違いない。

だが、目が覚めると、また限界がくるまでここに居続けるつもりなのだろう。

悠志郎は、ふと柚鈴が美月と一緒にいたがっていたことを思い出した。

『葉桐さん、柚鈴は美月と一緒にいたがっているんです。もし、今晩もここから動かないようであれば一緒に寝かせてやってくれませんか?』

『なりませんっ!』

悠志郎の言葉に、葉桐は間髪入れずにきっぱりと言い放つ。
その怒気のこもった声に意表を突かれ、悠志郎は思わず言葉を失ってしまった。

『あ……その……すみません』

唖然とする悠志郎を見て、葉桐は慌てて言葉を続けた。

『美月がどんな病気か分かりませんから、もし……柚鈴にうつっては……と』

『いえ……分かりました。そういうことであれば仕方ありませんね』

確かに美月はいつもの貧血とは様子が違う。
もしかすると、伝染病の類かもしれないのだ。
葉桐の心配はもっともなものであった。

『はい。なので……美月の容体がよくなるまで……もうこの部屋には入れさせないでください。柚鈴には私からもよく言って聞かせますから、悠志郎さんも決してその様なことをさせないようにお願いします』

『……分かりました』

柚鈴の願いを聞いてやりたい気持ちは十分にあったが、葉桐の言うことも理解できる。

悠志郎は仕方なく頷くと、葉桐が用意してくれた夕食を取るために立ち上がった。

また今晩も、葉桐や鈴香と代わって美月の看病をしなければならないのだ。
今のうちに体力を付けておく必要があった。

『……っ!?』

部屋を出ていこうとした悠志郎を、葉桐がハッとしたように振り返る。

その様子にただならぬものを感じた悠志郎は思わず足を止めた。
美月の容体に変化があったのかと思ったのだ。

『なにか?』

『あ……いえ、別に……なんでもありません』

悠志郎が声を掛けると、葉桐は動揺したように視線を泳がせた。

『……?』

何かを言いたげなように感じたので、しばらく葉桐を見つめ続けていたが、結局彼女は何も口にしようとはしない。

妙だとは思いながらも、悠志郎は葉桐に一礼すると廊下へと出た。

……なんなんだろう?

葉桐の様子は明らかにおかしい。
まるで悠志郎から何かを感じて動揺しているかのようであった。

彼女があのような態度を取るのは初めてのことである。

……別にどこも変わりはないんですけどねぇ。

何気なく自分の身体を見まわした悠志郎の悩裏に、ふとさっきまで見ていた夢の内容が浮かび上がってきた。

夢の中で彼が言っていた言葉を……。

……目覚め、か。

未だに意味はよく分からないが、思考は錯綜しているのに身体は何やら好調だ。
悠志郎は試しにゆっくりと拳を握ってみた。

途端、拳の肉が盛り上がり、血管が浮き上がってくる。
まるで不思議な力を纏ったような感覚だ。

この拳なら岩を砕き、何でも握り潰せそうな気さえした。

思わず拳を緩めると、すっと力が抜けていつもの見慣れた自分の手に戻っていく。

……まさかね。

悠志郎は自分の想像がおかしかった。
あんな夢を真に受けるなどどうかしている。
立て続けに色々なことが起こったので、まだ少し混乱しているようだ。

そう自分に言い聞かせながら、悠志郎は台所へと向かった。


『月陽炎~真章・銀恋歌~』の最初へ 『月陽炎~真章・銀恋歌~』 40 『月陽炎~真章・銀恋歌~』 42 『月陽炎~真章・銀恋歌~』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前