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『月陽炎~真章・銀恋歌~』
【二次創作 官能小説】

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『月陽炎~真章・銀恋歌~』-16

17 『私……こんなだから、街はおろか学校にだって行けない……。外鳥居の側までは何度か行ったことがあるんです……でも、どうしても鳥居をくぐることはできませんでした。足がすくんで動かなくなる……』

結果こそ伴っていないが、柚鈴は境内だけの世界から外へと飛び出そうと何度も試みているようだ。

だとしたら、それは籠の中の鳥ではない。
自らの意志で飛ぼうとしているのだから……。

『飛び方を知らないだけですよ、きっと』

『そう……かもしれませんね』

柚鈴が自嘲気味に笑った時、近くの木から数羽の小鳥が連れ立って飛び立って行く。
その姿を、彼女は羨ましそうにじっと眺めた。

『教えますよ……飛び方を』

『え……でも……』

『このままじゃいけないのは分かっているのでしょう?それに、私が来てから数日しか経っていないのに、もう話せるようになったじゃないですか。だったら……』

『それは違いますっ』

柚鈴は珍しく声を荒げて言った。

『外から来た人で……こうやって話せる様になったのは……悠志郎さんがふたりめです』

ひとりめ双葉でさえ、友達として平気で話せるようになるまで半年近く掛かったらしい。

『悠志郎さんは特別なんです』

柚鈴ははにかみながら言った。

『それに……悠志郎さんは、懐かしい何か……昔、出会ったような……そんな感じがして……。一生懸命話し掛けてくれて、いつも笑っていてくれたから……だから私……それに応えなきゃって……頑張ったんです』

『懐かしい……何か?』

『……ごめんなさい。私、何言ってるんでしょうね』

柚鈴は恥ずかしそうに頬を染めた。
だが、悠志郎も柚鈴に同じようなことを感じていた。

ここに来て初めて会ったはずなのに、柚鈴を見ていると、遠い昔から知っていたような感覚になるのだ。

『も、もう……戻りましょうか』

ぼんやりと柚鈴を見つめていると、彼女は恥ずかしそうに身を翻した。

頭の隅に引っ掛かった何かを思い出そうとしていた悠志郎は、そんな柚鈴の言葉にはっと我に返った。

『これで、悠志郎さんとはいつでもお話することができるようになったから……』

『柚鈴さん……もう少し頑張ってみませんか?』

背中を向けた柚鈴にそう語りかけると、彼女は『えっ?』と振り返った。

確かに悠志郎とは話せるようになったが、それだけでは根本的な解決にはなっていないのだ。
悠志郎は、柚鈴に外の世界を見せてやりたかった。

『きっと双葉さんも手伝ってくれますよ』

『でも……私、髪の毛もこんなだから……』

柚鈴は自分の髪をそっと摘み上げた。

もしかすると、彼女が対人恐怖症になった理由は、人とは違う髪の色にあるのかもしれない。

外見から人を判断する偏見を持った輩はどこにでもいるものだ。

『そんな綺麗な髪を馬鹿にする者は、私が懲らしめてあげますよ』

少しおどけて言うと、柚鈴はくすくすと笑った。

『本当に……ついていてくれますか?約束……してくれますか?』

『ええ、男に二言はありませんよ』

『じゃ、指切り……』

柚鈴はそっと小指を差し出した。

近付くこともできなかった柚鈴に、まさか触れる時が来るとは思いもしなかった。

本当に外の世界を見たいという意志があれば、彼女は変われるはずだ。
悠志郎は柚鈴の柔らかな指に自分の指を絡ませていった。

『えっと……正直怖いです。で、でも……私、頑張ります』

『柚鈴さんはいい子だ』

悠志郎は、柚鈴の頭を優しく撫でた。
銀色の髪は思っていたよりもさらさらで、とても触り心地がいい。

『あの……もうひとつお願いがあります』

『なんなりと』

『私のことは、柚鈴って呼び捨ててください』

同意する代わりにしっかりと頷き、悠志郎は正面から柚鈴の瞳を見つめた。

『柚鈴……上手くいけばあなたは呪縛から解き放たれるでしょう。ですが、色々と辛いことも多いと思います。それは……覚悟の上ですか?』

柚鈴は一呼吸の間、真剣な眼差しで口をつぐんだが、

『お願いします。私を、外の世界へ連れていってください』

力強く……はっきり言い切り、暮れなずむ街に視線を向ける。

『行ってみたい……あの畑の向こうへ……煙を吐いて走る列車が止まる駅へ。買い物もしてみたいし、学校にだって行きたい』

まだ見ぬ世界に思いを馳せるかのように、柚鈴は街を見下ろしながら小さく呟いた。


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