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モノクロ
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モノクロ-1

日差しの強い平日の新宿はアスファルトの照り返しを受けて蜃気楼を練りだしている。歪んだスーツ達が 歩道に座り込むあたしを置き去りにめまぐるしく動く。
ジリジリと迫り来る熱さにむせ返りそうになりながらあたしの周りを忙しなく通り過ぎてゆく時間をただ眺めていた。
ふと思う。『あたし…生きてんだっけ?』
恐いものなんてない。失くすものもない。守らなければならないものもないし
大切なものもない。
ただ気紛れに産み落とされ無機質に呼吸することのみを許されている。
色の無いモノクロの世界でただ意味もなく生かされている。
あたしには何もない。
あたしは必要ともされてない。
いなくてもいい存在がここで時間の狭間を傍観している。
たとえここで生き急いでもこの規則的な人の群れは透明なあたしには気付きもしない。
ポケットに手を入れる。
いつもと同じ感触。
季節感のない薄いシャツの袖をめくり 波打つ左手首にそれを当てる。
流れ出る赤い生の象徴
左手首はまるでそこに心臓が移動したかのごとく脈打つ。
『あ あたし 生きてた』モノクロの世界はあたしの周りを避けながら今もまだ廻る。
あたしの存在を否定しながら。
音が消え 自分を見る
透明なあたしはモノクロな世界の中にいた。
手首から流れる紅だけは色鮮やかに映え 生温い涙が頬を伝った。


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