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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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月下氷人-4

 美紀が客間で休んだ後、ケンジは寝室で洋輔に電話をした。
『なんだ、ケンジ』
「今ホテルか? 久宝」
『ああ。さっきまで堅城と飲み直してた』
「そんなとこで良かったか? ちょっと狭いだろ、そのビジネスホテル」
『構わねえよ。一人だし、寝られればどんなとこでもな、っていうか予約してくれてありがとうな』洋輔は笑った。
「あのさ、おまえ、今の彼女とは本気でつき合ってんのか?」
『なんだよ、いきなり』
「居酒屋でのおまえの反応が気になってな」
 しばらくの沈黙の後、洋輔は低い声で言った。
『ケンジだから言うけど、実は俺、今の彼女とは別れたいって思ってんだ』
「またかよ。いつものことだろ? おまえの」
『いや、俺はそうなんだけどよ、彼女がそういうこと言い出せねえオーラ出してて』
「切り出せないのか?」
『結婚するつもりでいるらしいんだよ。俺と』
「なんだって? それじゃ余計に急がなきゃいけないんじゃないのか? おまえにその気がないんなら」
『そうなんだよなー』
「もう何度も抱いたんだろ? その彼女を」
『付き合い始めて二度目のデートで一回、俺んちの部屋で一回。でもそれきりだ。俺にしちゃ珍しいだろ?』
「自分で言うな」
『何か抱いてても気持ち良くなんねーんだよ、あの子』
「なに贅沢言ってるんだ」
『いや、身体は射精して気持ちいいんだけど、なんか満たされねえ、っていうか……』
「満たされない?」
『ああ。なんかな。あの子もそれを察知したのか知らねえけど、俺の部屋に来たいってそっから言わなくなった』
「おまえいやいや相手してたのか?」
『そんなことしねえよ。でもな彼女も、俺の部屋の匂いが苦手だ、って言ってたんだぜ。だから俺も誘わなくなったんだ』
「そんなに臭いのか? おまえの部屋」
『バカ言うな。いつも掃除して除菌までしてるんだぞ』
「どんな匂いがしてるんだよ、おまえの部屋」
『シースパイス。知ってっか? 『MUSH』の』

 ケンジは思わずケータイを耳から離した。そしてドレッサーの前に座ったままケンジの様子を窺っていたミカに目配せをした。

「なんでシースパイスなんか使ってんだよ、MUSHの石けんなんかおまえらしくもない」ケンジはわざとミカにも聞こえるように少し大きな声で言った。
『なんで、って……。いい匂いじゃねーか』
「単刀直入に訊くが、」
『なんだよ、ケンジ、声が不気味だぞ』
「おまえ、実は本命がいるだろ。ほんとに心からつき合いたいって思ってる女性がいるな?」
 洋輔は黙り込んだ。
「その人が愛用してるってことなんじゃないのか? シースパイス」

 長い沈黙の後、洋輔は低い声で言った。
『ケンジ……おまえにはいずれ俺の気持ちを話す。なんか気い遣ってもらってるみてえだし』
「わかった。俺の電話はホットラインだ」
『すまねえな』
 洋輔が先に通話を切った。


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