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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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月下氷人-3

 美紀が着替えを持ってバスルームに足を向けた後、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出していたケンジをミカが呼んだ。
「ケンジ」
 リビングに戻ってきたケンジは、そのキャップを捻りながらミカの向かい、今まで美紀が座っていた場所に腰を下ろした。
「美紀先輩、どうかしたのか?」
 ミカはその問いには答えず、言った。「ケンジ、久宝にさ、それとなく訊いてみてくれない? 彼女のこと」
「え? どういうこと?」
「確実に言えるのは、美紀は久宝が忘れられてないってこと」
「忘れられていない?」
「そう。好意的な意味で」
「ほんとに? 久宝のヤツにあんなことされて、美紀先輩、どっちかって言うと久宝を嫌ってるのかと思ってたよ、俺」
「それが違ってたみたいなんだよ。でもま、処女を捧げたからってだけであいつを好きになってるわけじゃないけどね、たぶん」
「そうなんだ……」
「それにさ、夕方、居酒屋で飲んでる時、美紀に彼女のこと言われて、久宝、妙に否定してたじゃん、真剣な顔してさ」
「うん。あの時俺もあれって思った。いつになく不機嫌な顔だったよな、あいつ」
「でしょ? 実は今の彼女ともしぶしぶ、何となくつき合ってるんじゃないかな」
「あいつずっとそうやって女性をとっかえひっかえしてきたからな。本気で好きになった相手なんかいないんじゃないか」
「いつでも遊び。あたしも何度もあいつに意見したけど、全然。馬の耳に念仏状態」
「で、何て訊けばいい? あいつに」
「今の彼女とは本気なのか、ってことと、心から好きになった人なんていないのか、ってことぐらいかな」
「あいつもいい年なんだし、そろそろ身を固めてもいいよな、確かに」

 しばらくして美紀がシャワーを済ませてリビングに戻ってきた。
「ミカ、ありがとう、『シースパイス』わざわざ買っといてくれたの?」
「そ、あんたのためにね。せっかく泊まってくれるんだし。おもてなしおもてなし」ミカは笑った。
「美紀先輩昔から好きだったですよね。部活の後も先輩からシースパイスの香りがしてましたもんね、いつも」
 ミカが怪訝な顔でケンジを見た。「なんだケンジ、あなたいつも美紀の身体の匂いを嗅いでたのか? いやらしいヤツ」
「そ、そんなことしないよ」ケンジは真っ赤になった。
 美紀はくすっと笑って言った。「ケンジ君ちっとも変わらないね、そうやってすぐ赤くなって弁解するところ」
 ケンジは必死になって早口で言った。「べ、弁解じゃありません。ほんとです。俺、美紀先輩をそんないやらしい目で見たりしてませんでしたから」
「残念」美紀は言った。「いっそいやらしい目で見てくれて、あたしの身体を慰めてくれたら良かったのにな」
 ケンジはますます真っ赤になった。「よしてください、美紀先輩っ!」
 美紀はあははは、と笑った。


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