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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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月下氷人-2

「いいの? ミカ、お邪魔しちゃって」
 美紀は海棠家の玄関先で立ち止まり、言った。
「だめだ、って言っても今さらこの辺にあんたが一人で泊まれるホテルはないよ」
「遠慮しないで下さい、美紀先輩」ケンジも言った。


 ソファに座った美紀がきょろきょろしながら言った。
「あれ、龍くんは?」
「ああ、今『シンチョコ』で預かってもらってるよ。あの子かまってちゃんだから、あたしやケンジに付きまとって、それに相手してたらあんたとゆっくり話もできないよ」
「寂しがってるんじゃないの?」
 ミカは紅茶のカップを美紀の前に置いた。
「大丈夫。あっちにいるいとこのねえちゃんが大好きなんだ、あいつ。もう親のことなんか忘れ切ってんじゃない?」
 美紀は笑った。

 美紀の横に座ったミカは、コーヒーのカップを手にとって言った。「さあ、話してみなよ。何があったの?」
「え? 何のこと?」
「とぼけんじゃないよ。顔に書いてある。言いたいことがいっぱいあるって」

 美紀は観念したように口を開いた。
「失恋したの」
「失恋? あんた好きな人がいたの? っていうか実際つき合ってたとか?」
「うーん、複雑」
「なんだよ、それ」ミカはカップを口に運んだ。

 それから美紀は、出会い系で出会った二人の男性との出来事をミカに話して聞かせた。話し終わった時、美紀はふうっと大きなため息をつき、紅茶のカップを口に運んだ。

「意外にさっぱりしてんじゃん。美紀」
「思えば、軽率で短絡的だった。あんな方法でまじめな交際ができる相手なんか見つかるわけないよね」
「でもその島袋っていう男にはかなり惚れてたんじゃないの?」
「幻想……かな。妄想かも。あの人、とっても不器用だって思う。電話した時部屋を走り回る子どもの足音が聞こえたり、二人分のイニシャルが彫ってあるキーホルダーちゃらちゃら腰にぶら下げてたりしてたし」
「子持ち既婚者って気づいててあんた恋してたの?」
「自分で必死に彼が結婚していることを否定してた。そんなこと考えたくなかった」
「焦ってんのか? あんた」
「焦りもするよ。もう31だよ?」
「まだ若いじゃないか。そんなリスクを犯してまで男を漁らなくても……」
「漁る、って何よ。あたしそんな肉食じゃないからね」
「出会い系に首突っ込んだ時点で肉食だよ。思いっきり」

 美紀は黙り込んだ。そして疲れたようにまたため息をついた。
「心も身体も癒やしてくれる人が欲しいんだろ? 美紀」ミカが優しく言って、彼女の肩に手を置いた。
「たぶんね」
 そして美紀は顔を上げて悪戯っぽく口角を上げた。「ケンジ君貸してくれる?」
「ああ、それはいい考えだ」ミカも笑った。「彼に抱かれたら身体は大満足だよ。保証する」
「そんなにいいの? ケンジ君」
「もう抱かれてる間、ずっと天国にいれるよ」ミカはウィンクをした。「でも、」
「え?」
「ケンジじゃあんたの心までは癒やせない。そうでしょ?」
「……何が言いたいの? ミカ」
「あんたさ、本当は久宝のことが好きなんじゃない? あいつとおんなじシャツに固執してたりするし」
 美紀はミカから目をそらして肩をすくめ、あっさりと言った。「まあ、あいつはあたしのヴァージンを奪ったやつだしね」
「それだけが理由じゃないだろうけどさ、久宝が彼女持ちっていう現実を目の当たりにして、あんたもやけになって変な男どもに走ったんじゃないの?」
「……」
「それとも、あんた久宝を恨んでるの?」
 美紀は首を横に振った。
「忘れられてないんじゃないの?」
 ミカは美紀の顔を覗き込んだ。
「そんなこと言ったって、久宝君には彼女がいるじゃない。いつも……」
 美紀の瞳が涙で揺らめいた。

 その時スウェット姿のケンジが、タオルで頭を拭きながらリビングに戻ってきた。「美紀先輩、シャワーどうぞ」
 美紀は照れくさそうに目を拭って、顔を上げた。「ありがとうケンジ君」


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