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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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月下氷人-1

「なんすか、一体」洋輔が焼き鳥の串をつまみ上げて口でむしり取った。「なんでいきなり同窓会?」
「相変わらず強引ですね、ミカ先輩」洋輔の横に座った堅城が枝豆に手を伸ばした。

 ここはすずかけ町の居酒屋『らっきょう』。大学時代、水泳サークルに所属していて、よく飲み歩いていたメンバーに声を掛け、呼びつけたのはミカだった。集まったメンバーは呼びかけ人のミカ、美紀、二人の二年後輩で現在ミカの夫であるケンジ、そのメドレーリレー仲間だった久宝洋輔、堅城。

 ミカが不機嫌そうに言った。「小泉はどうした? なんでここにいないんだ?」
「ヤツは、」堅城がビールジョッキに手を掛けて言った。「海外に派遣されてるんです」
「なに? ほんとか?」ケンジが言った。
「『二階堂商事』の営業部にいて、まだ独身だから今のうちに出されたんじゃないですか?」堅城はビールを豪快にあおった。
「今、上海にいるそうっすよ」洋輔が言った。「現地で女ゲットしたりして」
 ケンジが言った。
「でもこのメンバーで飲むのも何年ぶりかな」
「俺たちが卒業した年以来だから6年ぶりだな」堅城が言った。「みんな変わってませんね」
「なんでこんな中途半端な年に企画したんすか? ミカ先輩。ふつう切りよく10年とかにするっしょ」
「ただの気まぐれ」ミカが鶏手羽先に歯を立てたままで言った。
「……やっぱり」
「いつものことだろ?」堅城が笑った。「ケンジはやっぱり振り回されてるのか? ミカ先輩に」
「相変わらずだ」ケンジが言った。
「あたしがいつケンジを振り回してるって? 身に覚えがないんだけど」
「ほら、そういうトコが。自覚無しに振り回してんでしょ? ケンジを」洋輔がミカを指さしながら言った。
「久宝、おまえ殴られたいのか」ミカが身を乗り出した。
 一同は笑った。

「ところで美紀先輩、なんか元気ないですね」ケンジがビールを一口飲んだ後、テーブルにジョッキを戻しながら言った。「あんまり飲んでないし」
 ミカはちらりと横に座った美紀を見た。
「ううん。そんなことないよ。楽しい。久しぶりにみんなと会えて」
「確かにちょっと静かだな、美紀先輩」堅城も言った。
 美紀は少し無理して笑顔を作って言った。「そうそう、みんな聞いて、久宝君の彼女ってかわいいんだよ」
 堅城が横の洋輔を軽く睨みながら言った。「今度の彼女はどんな子なんだよ」
「ボブカットのおとなしそうな子。もうラブラブなんだよ。あたし二人のデートの場面を見ちゃった」

 洋輔は一瞬美紀を睨み、すぐにうつむいて眉間に皺を寄せ、ぼそっと呟いた。「ラブラブなんかじゃないっすよ」

 いつになく真顔で少しふて腐れたような雰囲気の洋輔に、前に座ったケンジはばつが悪そうに頬をぽりぽりと掻いて言った。「こ、この唐揚げ、うまいですよ。美紀先輩いかがですか?」
「え? あ、ありがとうケンジ君」
 ミカが枝豆の鞘を指でつぶして、器用に中の豆を飛ばした。
「いてっ!」洋輔が言った。彼は右頬に当たってテーブルに落ちたその緑色の豆を拾い上げ、口に入れながら言った。「ミカ先輩、やめてくれません? 枝豆飛ばすの」
「久宝は枝豆嫌いか?」
「おんなじこと、大学時代にケンジにも言ってましたよ」
「おまえさ、いっつもそのシャツ着てんのな、よれよれのボタンダウンのシャツ」
「いいでしょ。ほっといて下さい」
「こいつ、ずっとこんな格好なんです」堅城が言った。「大学ん時から」
「だよな。一着しか持ってないのか?」
「そんなわけないでしょ」洋輔が横目でミカを睨み、ジョッキのビールをあおった。
 ミカはちらりと横の美紀に目をやった。彼女はビールのジョッキを両手で包み込むようにして、少しうつむき加減に上目遣いで洋輔を見ていた。



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