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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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真剣な気持ち-2

 美紀のマンションの近くの喫茶店『ジャマイカ』で島袋と再会した美紀は、申し訳なさそうな顔でテーブルの向かいに座ったその背の高い男性を見た。
「ごめんなさい、急に呼び出しちゃって……」
「構わないよ。嬉しかった。電話もらって」
「めんどくさい女ですよね、あたし」

 島袋はテーブルのコーヒーカップを手に取った。「何かあった?」
「あたし……」美紀はさらに済まなそうな顔をしてうつむいた。「貴男とは別の人とも出会い系サイトで知り合って、会ってしまったんです。貴男とお会いする前に」
 島袋は少しだけ眉を動かして口から思わずカップを離したが、にっこり笑って美紀に身を乗り出した。
「気にしないで。で、その人と何か?」
 美紀は決心したように顔を上げた。「あたし、その人と初めて会った日にホテルに連れて行かれたんです」

 島袋は面白くなさそうな顔をした。

「あたし、寂しかったんです」
「わかるよ」島袋はまたカップを口に運んだ。
「でも、その人、思ってたより自己中で、全然好きになれそうにない人でした」
「やっちゃったの?」カップを口に当てたまま、島袋は上目遣いで美紀を睨むように見た。
「最後までいかなかった……。あの人先に果てちゃって……」
 島袋はカップをテーブルに戻し、椅子の背にもたれて微笑んだ。「そう。それは良かった」
「あたし、もうその人とは会いたくなくて、メッセージで断ったけど、今日、」
 美紀は言葉を詰まらせ、涙ぐんだ。
「今日?」島袋が促した。
「その人に呼び出されて、乱暴されそうになったの」
「乱暴?」
「もう……いや」
「誰かに助けられた?」
 美紀は小さくうなずいた。「偶然、大学の後輩が同じ店に来てて」
「ほんとに良かったね」島袋はテーブルに肘をついて、笑顔を美紀に向けた。

 美紀は背中を伸ばし、島袋をまっすぐ見つめた。
「島袋さん。あたし貴男と真剣なお付き合いがしたいです」

 島袋の目がかすかに揺れ動いた。

「真剣に、って? 結婚を前提に、ってこと?」
 美紀はコクンとうなずいた。
 島袋は黙り込み、視線をテーブルに落として少し考えていた。
「ごめんなさい、強引ですね、あたし……」
「君がそう思ってるのなら……」
「また会いたい。すぐに……」美紀の目には涙が宿っていた。
「来週の月曜日の夜」島袋が抑揚のない声で言った。「会えるよ」
 美紀の目から熱い粒が頬を転がり落ちた。

 島袋は席を立ち、注文票を手にとって美紀の横に立った。「日曜日の夜に電話するよ」
 美紀はその時、島袋の腰のベルトに引っかけられていた鍵束に目がいった。車のキーらしきものが何故か二つ、それに家の鍵。シルバーに輝くキーホルダーが一緒に下がっていて、それにはイニシャルが刻印されていた。
『K.S.&A.S.』
 美紀はそこに立ったまま、一人でレジに向かう島袋の背中を見送った。



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