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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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忘れられない香り-2

「洋輔くんは、」
 ふと気がつくと、杏樹が自分の顔を見上げるようにしていた。風が吹いて、その少し赤みがかったボブカットの毛先が彼のうなじを撫でた。
「なに?」洋輔は絡んでいた彼女の腕をほどいて身体を向けた。
 杏樹はうつむき、躊躇いがちに上目遣いで言った。「あたしのこと、好き?」
 洋輔は折れていたシャツの袖口を直しながら肩をすくめた。「嫌いだったらこうやってくっついて歩いてねえよ」そしてにっこり笑った。
「そうね」杏樹はほっとしたように笑った。
「今日は暑いな、何だか」洋輔は額の汗を拭った。
「もう五月だからね」杏樹はバッグからハンカチを取り出して洋輔に差し出した。
「あ、いや、大丈夫」洋輔はポケットからくしゃくしゃになった白いハンカチを取り出して、恥ずかしげに笑った。
 歩行者用の信号が青に変わり、二人は道路を渡り始めた。

 大通りから右に折れた路地に洋輔と杏樹は足を踏み入れた。その狭い通りの両側にはティーン向けのファッションの店、アクセサリーショップ、タレントショップ、ファーストフードの店などが軒を連ねていた。
「へえ」
 思わず立ち止まった洋輔が小さく呟くのを聞いた杏樹は、顔を向けてどうしたの、と訊いた。
「この通り、俺、初めてだ」
「そうなの? 街、よく歩くんじゃないの?」
「あんま来ねえな、こういうちゃらちゃらしたとこには」
「男の人にはちゃらちゃらしてるように見えるのね」杏樹は笑った。
「ん?」
 洋輔は足を止めた。
「どうしたの?」杏樹がまた訊いた。
「なんか……いい匂いが」
 洋輔は杏樹の手を離して、その甘い香りの発生源を求めてさらに狭い路地に入っていった。杏樹も後を追った。

 それは『MUSH』という店だった。
 店頭に立った洋輔はその看板を見上げて言った。「すんげーいい匂いじゃね? 何の店なんだ?」
 横に立った杏樹が言った。「石けん屋さんよ。ハーブや蜂蜜なんか使って、いろんな香りを調合して作ってるのよ。入浴剤とかボディスプレーとかも売ってるわ」
「ちょっと覗いていいか?」洋輔は杏樹の顔を見た。
「いいけど」杏樹は少し面白くなさそうな顔をした。

 洋輔は店内の一角に足を止めて、目の前にある深いマリンブルーの石けんの固まりをじっと見つめていた。
「『シースパイス』ってのか、これ……」
 独り言を呟いて、彼は切り分けられた小さなブロックを恐る恐る手に取った。そしてゆっくりと鼻に近づけた。
 ああ、と洋輔がため息をついたのを杏樹は怪訝な様子で見た。



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