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下の 星
【純愛 恋愛小説】

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地名などは実在の非事実-1

人丸前駅のホームから、黒い雲を背にした天文科学館の時計塔が見えた。
「絶対降るね…午後2時って感じやない暗さやね。」
僕は一緒に電車を降りた ち佳さんに言った。ち佳さんはホームの上の、標準時子午線を反復跳びしながら言った。
「そやけど、絶好のプラネタリウム日和やん。」

僕は とし也、高校2年。「詩歌研究会」の先輩 ち佳さんのお誘いを受けて天文科学館を訪ねることとなった。
ち佳さんは、研究会の会員がスマホでゲームなんかしてると、
「ゲームばっかりやっとっても、ホンモノは見えて来えへんで!」
なんて言って会員からうとまれたりするけれど、僕は彼女の「詩才」に憧れていた。

はじめは天文科学館に何人かで来ると思ってたのに、集合場所に来たのは僕と ち佳さんだけ。
「別に二人だけでも、不満やないやろ。」
たしかに、僕は嬉しかった。

この明石天文科学館は、日本標準時の子午線上に建てられてるから「時と宇宙」を基本理念にしてる。だから宇宙に関する展示に加えて、昔の時計なども展示してある。
だけど ち佳さんが僕にわざわざ示したのは、古い石碑の拓本だった。
「これね、昔の中国の星座図なんやわ。真ん中あたりが北極星に近いところで、ほら ここに北斗七星があるやろ。」
「すごい。七つの星それぞれに名前がついとるんやね。」
「そんで、この『参』いうんが…」
「あ、オリオン座やね。」
「この下…えらい事になっとるねん。」
「え…?」

ち佳さんが示したのはオリオン座の下の、今は「うさぎ座」「はと座」になっているあたりだった。
「『厠』に『屎』って…今にすれば『トイレ座』『ウンチ座』になるわけですか?」
「その通り。」
「先輩…星座で下ネタですか…」

プラネタリウムのドームの中に、駆け足で入った ち佳さん。
「この機械の複雑さは、いつ見ても惚れなおすわぁー」
今や現役では日本最古。世界的にも5番目の古さだというドイツ製(旧東ドイツ)のプラネタリウム。「蟻」のような「鉄アレイ」のような異様な偉容。
「先輩は、よく来られるんですか?」
「上映テーマが替わると来るねん。特に日本から見られへん、南の国の夜空が映されそうやったら必ず来るわ。」
「それにしてもすごい機械ですね…」
「これだけの技術を、1930年代には完成させとったいうんがドイツ 半端やないわ。」

ち佳さんに言われて、東側寄りの席に二人並んで座った。
「太陽」に見たてられた丸い光が、明石の街を描いたシルエットの向こうに「夕日」になって沈んでいくと、西の空に赤い夕焼けが広がった。
やがてそこに一つ二つ星が現れ、銀河が輝く満天の星空になっていく…よくあんな複雑で武骨な機械から、自然の情感豊かな星空が映し出されるなぁ〜と思いながら見ていたら、

耳元に、ぬくもりを感じた。
横を見ると、ち佳さんが僕の耳元に手のひらを立てていた。
手のひらに何か白いものがある。
星だ。
ち佳さんの手のひらに、プラネタリウムの星が「地平線」をはみ出して映し出されてる。
僕はひとさし指をのばして、ち佳さんの手のひらをかすめて、その星をうけ取った。
視線を横に向けると、かすかな星の光の中で、ち佳さんが微笑んでるのが見えた。
視線をもとに戻すと、僕の指先から星が動いていく。
「あっ」という間だった。
ドームの中に解説の声が響く。
「時間が経つと、夜空の星は動いていきます。これは星が動くのではなく、地球が自転しているためです…」
東の空の「地平線」から次々とのぼっていくたくさんの星。
ち佳さんと僕がつかまえてたのは、どの星だったのだろうか。

「やっぱり降って来ましたね。」
「うん、傘 買っといてよかったわ。」
「ひどく降らんうちに駅まで行きましょう…」
「何言うてんの? まだやで。」
「え?」
「この向こうの山の上の、子午線の標柱を見るまでが私らのデートの目的やからね。」

デートだったんだ……


【お粗末 ここまで】


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