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大手拓次(おおてたくじ)の詩
【エッセイ/詩 その他小説】

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引用部分は今の仮名づかいにして、散文形式にしました。-1

もし老舗の古本屋さんで。バラ売りの古い文学全集を見つけたらチェックしてほしい。詩人、大手拓次(明治20〜昭和9)の名前が目次にあるかどうかを。

大手拓次の詩はただごとではない。声に出して読むと、身体に寒気が走るほど幻影が生々しく心の中に描き出されてくる。
大手拓次の詩はかつて「陰鬱な詩」と評されていた。しかし今の視点で見ると、昔はなかったコンピューターグラフィックによるファンタジー画に合致する感じがする。たとえば、

そこをどいてゆけ、あかい肉色の仮面のうえに生えた雑草は、びよびよとしてあちらのほうへなびいている。毒鳥の嘴(くちばし)にほじられ、髪をながくのばした怪異の托僧は、こつねんとして姿をあらわした。ぐるぐると身をうねらせる忍辱は、黒いながい舌をだして身ぶるいをする。季節よ、人間よ、おまえたちは横にたおれろ、[以下略]

(『仮面の上の草』より)

人それぞれに像は異なるだろうが、読むだけでコンピューターグラフィックのあの色彩や光沢によって描かれた『怪異』の光景が浮かんでくる感じがする。

鏡の眼をもった糜爛(びらん)の蛇が、羚羊(かもしか)の腹を喰いやぶる蛇が、凝力の強い稟性(ひんせい)の痴愚を煽(あお)って、炎熱の砂漠の上にたたきつぶす。冷笑の使をおびた駝鳥が奇怪なずうたいをのさばらす。死ね…… 淫縦の智者よ、芳香ある裸体の森へゆこう。なめらかな氈(かも)の上に 化粧の蛇は媚(こび)をあふれこぼす。

(『裸体の森』)

大手拓次の詩のすごさは、言葉自体はよくわからないけど、何かが心に描き出されて感動できるということなのだ。かと言って、わかりにくい言葉ばかりではない。

まだ こころをあかさない とおいむこうにある恋人のこえをきいていると、ゆらゆらする うすあかいつぼみの花を ひとつひとつ あやぶみながらあるいてゆくようです。その花の ひとの手にひらかれるのをおそれながら、かすかな ゆくすえのにおいをおもいながら、やわらかにみがかれたしろい足で そのあたりをあるいてゆくのです。[以下略]

(『莟(つぼみ)から莟へあるいてゆく人』から)

大手拓次は萩原朔太郎、室生犀星とならぶ北原白秋門下の『三羽烏』と言われながら、その作品の特殊性もあって知名度は決して高くはない。
さらに『つんぼの犬』など現代にそぐわない用語が詩句に多いため入手できる詩集なども少ない。
だから過去の出版物に頼るしかないのである。
できればどこか第一詩集の『藍色の蟇(あいいろのひき)』を全編(北原白秋の序文、萩原朔太郎の後書きも含めて)文庫化してくれんかね。


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