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葉月如月
【ノンフィクション その他小説】

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小さな駅の跡に-1

年老いたおばあさんとローカル私鉄電車に乗って、西の都市へ向かうと、必ず目を閉じて通り過ぎるのを待つ区間があります。
そこの線路の片側には、短く削られたホームの跡がありました。

そこにあった駅は「女学校前」。名門女学校の最寄り駅でした。
おばあさんは別の女学校に通っていたのですが、その女学校の制服を着た女の子たちとしばらく一緒に電車の中で過ごせるだけで、楽しい気持ちになれたそうです。
「みんな美人だったの。それも化粧では作れない、品のある美人。」

しかし、その駅は時々悲しみの花束におおわれたそうです。
それは、女学校の生徒が、駅を通過する電車に可憐な命を散らしてしまうから。
その出来事は、年に二度集中的に発生したというのです。

一度目は、八月。
八月と言えば夏休み。だけど一学期の期末試験で成績が思わしくなく、補習に出なければならない生徒がいたりします。
当時、補習は恥でした。まして夏休みの家族旅行に補習で加われないなどとなると、耐えられない叱りを受けたというのです。

二度目は、二月。
二月と言えば卒業間近。卒業していく先輩と、もう学校で会えない寂しさから、むなしくなって命を散らす事を選ぶ子がいたと言うのです。

当時はそうした事故で電車の運転を見合わせる、なんて甘いことはせず、駅員さんがなきがらを線路わきに置いて「むしろ」をかけて、電車は平常に運行させながら警察が処理していったそうです。
しかも女学校側としては、それが報じられてはたまらないと新聞社を抑えにかかり、結局知るのは女学校の生徒たちと、電車の窓から「むしろ」を見かけた一部の乗客だけだったそうです。
おばあさんも一度登校中に電車の窓から「むしろ」を見かけ、下校途中に摘んだ花でささやかな花束を作り、「女学校前」で途中下車してお供えしたそうです。ホームにはそんな花束がいっぱいでしたが、夜遅くなる前には片付けられていたそうです。

女のちに学校は移転して、駅も廃止されました。
長い間残っていたホームの跡も、線路の高架化でなくなりました。
おそらく地元に住む人々の間でさえ、この八月と二月の出来事を知る人はいなくなっているでしょう。

【おわり】、


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