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主役不在U〜主役健在〜
【ファンタジー その他小説】

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主役不在U〜主役健在〜-3

「あんた、誰?」
「見ての通りの雪女」
「その雪女が何をしているのよ?」
 悪びれる様子もない雪女に、些か毒気を抜かれる亜紀。しかし、雪女の方は頓着する様子もない。
「本の中って退屈じゃない。特に雪国の山の中なんて娯楽もないしさ。たまにこっちの世界に来てネットサーフィンやってるのよ。でも、まあ、そこに私の本を出しておいたから、あんた達の用事が済んだら本の中に帰るわよ。昼間、聞いていた様子だと、外に出ていった連中を捕まえるんでしょ?それまでの間、遊ばせておいてよ」
 雪女の言葉に、顔を見合わせる亜紀とミツル。
「まあ、すぐに帰るってんなら、ちょっとくらい良いけど……」
 パソコンを使う雪女というもの風情がないものであるが、部屋がひんやりと涼しいのは有難い。
 雪女は放っておいて、亜紀は得物のモップを取り出すとその重みを確かめるように一振りした。
「ああ、パソコン使わせてもらっているお礼に、出て行った連中のデータをプリントアウトしておいたわよ。このパソコンって、本来、そんなような為のものだものね」
「あ、有難う」
 リストを手にすると、亜紀はお礼を言った。
「西園寺、このリストにある本をリュックに詰めたら出発よ」
 そう言うと、亜紀はリストをミツルに渡し、自らはアリスの本を広げた。
 案の定、懐中時計を持ったウサギは姿を消している。
「あんの、呆け兎!」
 怒りに声を震わせる亜紀。
 そんな亜紀を他所に、ミツルはリストにある本をリュックに詰めた。やたら数が多いのでリュックははち切れんばかりになり、持ちきれない分は紐で括って両手に持つことになった。
「何か今回、やけに本が多いな……。いつもは数冊程度なのに」
  背中と両手に本を持ち、ミツルは首を傾げる。
「さあ、用意ができたら出発よ!」
 鼻息荒く、宣言する亜紀。どこから取り出したのか、雪女は白いハンカチをヒラヒラと振った。
「行ってらっしゃァ〜い」
 艱難辛苦が待ち受けるであろう覚悟を胸に、図書室を出たミツル達は、まずベートーベンの幽霊が出たと噂が出回っている音楽室へ向かった。
「……考えてみるとおかしいですよね」
 及び腰で歩いていたミツルが口を開いた。
「何がおかしいのよ?」
「いや、だって、ベートーベンってドイツの人じゃないですか。それが何だってベートーベン自身が見たことも聞いたこともないような日本の学校で幽霊やってるんです?それって僕が百年後にドイツの学校で幽霊になっているようなもんじゃないですか。意味不明ですよ」
「それが不思議なんでしょ。訳が分からないから不思議。七不思議なんてそんなもんでしょ」
 そこまで言って亜紀が急に立ち止まった。
 前方の暗がりから何者かが走ってきたからだ。
 幽霊にしては騒がしい。
 足もある。
「セリヌンティウス、僕を殴れぇえ!!」
 何者かは白い布でできた簡素な衣装を身に纏った白人男性だったが、きっぱりと日本語でそう言い放った。
「僕を殴れぇ!力一杯殴れぇっ!!」
「うわーっ!?僕達はセリヌンティウスじゃありませんよ!!」
 謎の男は赫怒してミツルの胸倉を掴んだ。
「五月蝿い!黙れ!セリヌンティウスじゃなくても殴れ!ともかく殴れ!」
「いきなり殴れと言われても訳が分かりませんよ」
「俺は友を裏切ろうとした、だから殴れ。殴れったら、殴れぇい!」
 駄々っ子のように腕を振り回す男。
「お前が殴らないんなら俺が殴る!殴るぞぉ!殴れぇ!殴るぞぉ!!」
 意味不明のことを口走りながら、男が振り上げた拳でミツルを殴ろうとしたその瞬間、亜紀が横薙ぎにモップを振り回した。


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