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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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その夜の後-2

「あ、りがとう、ございます……」

 なんだが昔に経験したような光景だと思いつつ、ディーナは受けとった水を飲み干した。喉のヒリつきや頭の痛みは、すぐ治ることはなかったが、それでも随分と楽になる。
 おずおずとカミルを見上げると、ディーナの表情から聞きたいことを読み取ったのだろうか、彼は抱えていた包みをディーナの膝に置き、隣に腰をかけて口を開いた。

「ここは、夜猫の経営する酒場の二階宿だ。昨日、お前は家に付くまで持ちそうもなかったからな。ここを借りた」

「……き……の、う……?」

 一瞬、聞き間違えかと思った。
 昨夜ということは、つまり今は翌日の夜で……まさか自分は丸一日も眠ってしまったのか。
 茫然としていると、カミルは手短に事情を話してくれた。

 なんと、ディーナが眠っているわずか一昼夜の間に、事後の処理も全て済んでしまったのだという。

 あの娼館は潰され、ディーナの娼婦としての登録も消された。
 娼館に元々勤めていた女の子たちに怪我はなく、大部分が夜猫の経営する娼館へ移ったが、今回の迷惑料として大幅に身請け金額を減らして貰えたらしい。

 密かに心配していたことだっただけに、それを聞いてディーナは心底からほっとした。
 それにカミルは金貸し達とも話をつけ、彼らはバロッコ夫妻とディーナが無縁ということで納得したという。

 だから安心しろ、とカミルは言ってくれたものの、自分が昨夜に晒したらしい醜態を思うと、ディーナの胸中はとても穏やかにはなれなかった。

 家に帰るまですら待てずに、抱いてくれと衆人環境でカミルに無理やりすがり、散々乱れたあげくに、一昼夜も眠ってしまったなんて……っ!

 一体、どう詫びればいいものかとうろたえていると、ボサボサに乱れていた髪をカミルにそっと撫でられた。

「夜猫の連中も、あの薬の効果は十分に判っているし、こういう界隈では珍しくもないことだ。誰も気にしていない」

 『気にするな』と言われても無理だったろうけれど、素っ気ない口調で事も無げにそう言われると、少しだけ気が楽になれた。
 膝に乗せられた包みには、着替えの衣服が入っており、あの晴れ着はもう着られない状態になったので処分したと告げられた。

 一人で着替えられるかと尋ねられて、ディーナは慌てて頷く。
 薬に副作用がなくとも、抱かれすぎた身体はまだ節々が痛むし、疲労もたっぷり残っているが、さすがにこれ以上の迷惑をかけるわけには行かない。
 痛む身体をなんとか動かして衣服を着替え終わると、カミルにひょいと抱き上げられた。

「家に帰るぞ」

 無愛想で素っ気ない、たったその一言が、ディーナの胸へ驚くほど暖かく染み渡った。
 抱きかかえて運んで貰うなど気が引けても、ろくに足腰が立たないこの状態で、これから山道を登って帰れる自信はない。
 だから、今夜だけは甘えさせてもらう事にした。
 家に着くまでの道中、カミルにしっかりと掴まりながら、安堵と幸せに包まれる。

(リアン……ありがとう……)

 ごめんなさい、と彼に謝るのは、なんとなく傲慢なような気がしたから、胸のうちでそっと深い感謝を呟いた。

 ディーナの旦那さまは、やっぱりこの偏屈な吸血鬼の彼で、帰る場所はあの山奥の小さな工房なのだ。


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