濃い上司と薄い部下-4
「そう謙遜するな。寝ている間にちょっとばかり見せて貰ったが、相当にご執着されてるようじゃないか」
ナザリオが下卑た笑みを浮かべて、ふんわりしたスカートに覆われている、ディーナの内腿あたりを指差す。
気絶している間に、際どい場所に刻まれた情交の痕まで見られていたと知り、羞恥に眩暈がした。
赤面して、今更ながらスカートをしっかり両手で押さえているディーナに対し、ナザリオは恥知らずな行為を気にもしていないように平然と言葉を続ける。
「武具師が了承すれば、もっと良い場所に工房を提供するし、お前にも専用のメイドをつけて、お嬢さまみたいに暮らさせてやる。山奥の小汚い工房で、あくせく手を荒らして家事をするより、ずっと良い身分になれるわけだ」
自信たっぷりに言い放たれて、ディーナは絶句した。
辺鄙な山奥の、とても小さな工房でも、あそこはカミルが誇りを持って武具を作り続けてきた、神聖な場所だ。そんな風に貶められていいはずはない。
それに、カミルの元で家事をするのが辛いとも思わない。
無理やり働かされているのではなく、ディーナだってきちんと対価を貰い、それに恥じないように努めているのだ。
仕事に対する誇りも、達成感の喜びも、認められる嬉しさも全て、カミルに教えて貰った。
彼自身の仕事に対する姿勢や、ぶっきらぼうながらもかけられる労いの言葉、手荒れに効く軟膏をわざわざ買ってきてくれたりなど……数々のそういう行動から教えて貰ったのだ。
「そちらの要求を受けるかは、旦那さまがお決めになることです。私には何の権利もありませんし、たとえあったとしても口を出すことは絶対にしません!」
気圧されていたはずの相手へ、自分でも驚くほどきっぱりと断言していた。
今度は怒りで頬を紅潮させているディーナを、ナザリオは一瞬だけポカンとして眺めたが、すぐに小バカにするような嘲笑を浮べた。
「気の弱い小娘かと思ったが、なるほど……なかなかの頑固者だな。だが、権利があろうとなかろうと、お前は色仕掛けでも何でも使って、死にもの狂いで雇い主をたぶらかすほうが賢明だ。これから先、娼館でド変態の相手を死ぬまでさせられたくなけりゃな」
脅し文句を吐きながら、ナザリオは太い金の指輪をはめた浅黒い手で、安楽椅子の脇に下がった呼び鈴らしい紐を引いた。
「それとな、義理のおっかさんが、お前に会いたくてたまらないそうだ。当然だなぁ、お前の返答一つに、てめぇの命がかかってるんだからよ」