投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

ディーナの旦那さまの最初へ ディーナの旦那さま 67 ディーナの旦那さま 69 ディーナの旦那さまの最後へ

見えない心と錆びつく思考-1


 午後になると、ディーナはリアンに付き添ってもらい、クルミや栗を拾いに行った。
 秋晴れの中、色づいた木々の間をリアンとおしゃべりしながら歩き、フカフカした落ち葉の絨毯から競うように木の実を拾うのは、とても楽しかった。
 美味しいキノコもたくさん見つけた。

 ―― リアンは、ディーナが見かけで思い込んでいたように、遺跡目当ての探索者ではないことも聞いた。

 彼は最初、ディーナはもうカミルからそれを教えられていると思っていたらしく、何も知らなかったのを驚いたようだ。

『アイツ、気でもつかったつもりか? ……でも俺は、嘘をついたまま口説きたくない』

 そう言って、暗殺者であることを告げられ、最初はさすがに戸惑った。
 誰かを殺すなどという職業は、とても怖いと思う。
 けれど、リアンのような人狼が、生き方の選択肢を多く選べなかったのも、容易に想像できるのだ。

 ……否、人狼だけではなく、人間だってそうだろう。
 昔のディーナ自身にしても、バロッコ夫妻の元で生きていくしか選べなかった。他の使用人たちも、色んなしがらみに縛られながら、あの小さな村で精一杯生きていた。
 だから、暗殺者なのを理由に、リアンを嫌う気にはなれなかった。


 夕食を食べ終えると、リアンは麓の宿に帰り、翌朝にまたやってきた。
 そしてディーナと日中を過ごして、また帰っていく。

 おかげでバロッコ夫妻の影に脅えることもなく、ディーナは平穏な日々を送れていた。
 リアンは優しくてとても頼りになったし、彼が旅をしてきた色々な地方の話を聞くのも楽しい。
 時々、ディーナの何気ない仕草でいきなり鼻血を噴くなど、妙な部分はあるけれど。

 とにかく、リアンと一緒に過ごすのが、とても楽しくて安心できるのは確かだ。
 けれど、厚い鍛冶場の扉を通して、時おり微かな金属音が聞える度に、何よりもホッとしている自分に気づいた。

 ――そして、八日目。

 ディーナは朝からソワソワした気分で、何度も鍛冶場の扉に目をやってしまう。
 すでに家中の掃除は綺麗にしてあるし、特製スープや他にもカミルの好きなご飯も作り終えた。

 夕暮れにさしかかる頃には、もう何もすることはなくなってしまい、ディーナは食卓の椅子に腰を掛けて、リアンとお喋りをしていた。
 それでも、鍛冶場から小さな音がすると、弾かれたようにそちらを向いてしまう。
 何度目かで首をよじった時に、リアンが苦笑した。

「カミルが武具を造る時は、いつもこうなの?」

「いつもってわけじゃ……ないと思うけど」

 ディーナは赤面して答えた。
 普段は自分一人きりだから気づかないだけで、もしかしたらいつもこうなのかも知れない。

「ふーん。ちょっと……じゃないな、かなり悔しい」

「え……」

「俺の予定では、二人きりの間にディーナを口説き落とす予定だったのに――っ、と」

 唐突に言葉をきり、リアンは肩をすくめた。

「残念。時間切れ」

 彼がそう口にした時、鍛冶場の扉が開いてカミルが顔を覗かせた。
 8日ぶりに見たカミルは、目の周りに濃い隈を滲ませて、随分と疲れているように見えた。
 彼は一瞬だけディーナを見たものの、特に何も言わず、すぐにリアンの方へ視線を向ける。

「できたぞ。リアン、入れ」

「ああ」

 リアンが立ちあがるのと一緒に、ディーナも慌てて椅子を引く。

「あの……っ」

 私にも見せてください、とディーナが続ける前に、カミルが素っ気ない口調でそれを遮った。

「ディーナ。悪いが、すぐに食事の用意を頼む。腹が減って死にそうだ」

「っ、はい!」

 弾かれたように返事をすると、鍛冶場の扉はすぐさま閉められてしまった。
 取り残されたディーナは、急いで台所のスープを暖めなおしにかかる。

(仕方ないよ。旦那さま、すごく疲れてるみたいだったじゃない。私も出来ることをやらなくっちゃ)


ディーナの旦那さまの最初へ ディーナの旦那さま 67 ディーナの旦那さま 69 ディーナの旦那さまの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前