武具の代金-3
しどろもどろで言うと、リアンがニコリと微笑んだ。
「本当だよ。それに昨日、俺からカミルを庇ったディーナを見て、思い出を美化していたわけでもないって、ちゃんと確信した」
「え……?」
助けてやったのになんて酷い態度だと、リアンに怒られても無理はないと思っていたのに、意外な言葉に驚いた。
しかし、リアンの声も表情も、真剣そのものだ。
「ディーナは種族で相手を差別したりしないし、酷い雇い主や、いきなり現れた人狼相手にだって、自分が守りたいものを、ちゃんと守ろうとする。……俺は、そんなディーナを愛してる」
真っ直ぐに向けられた告白が、ディーナの息を詰まらせた。
「……」
どう答えて良いのか解らず、口を開け閉めしながらオロオロしてしまう。
なぜか意識しないまま、固く閉ざされている鍛冶場の扉へ、視線を何度もやっていた。
そんなディーナを、リアンはしばらく眺めてから、ふぅっと息を吐いた。苦笑いをして、鍛冶場の扉を親指で示す。
「触らない約束はしたけど、声をかけるなとは言われなかったから、約束の範疇内で頑張ることにした」
「が、頑張るって……何を?」
恐る恐る訊ねると、リアンがニヤリと笑った。
「決まってるだろ。俺の番いになってくれるよう、ディーナを口説くつもり」
「つがいっ!?」
もう何度目かの驚愕に、ディーナは目を見開いて硬直する。
人狼の番といえば、人間でいう所の結婚相手だ。
「そんな……っ」
「ああ、無理強いする気はないから安心して。肝心なのはディーナの意思だよ。約束通り、絶対に触らないしさ」
あっさりとリアンは言い、それから何事もなかったような顔でキャンディーの薄紙を剥くと、美味しそうにしゃぶり始めた。
「……」
顔を赤くして立ち尽くしていたディーナだが、何と言って良いのかわからずに、結局は黙ってキャンディーの薄紙を剥き始めた。
薄い紙を丁寧に取って、透き通った琥珀色を舐めると、優しい甘味がふわりと舌先に広がる。
(これ……小さい頃にも食べたなぁ)
両親が生きていた頃、村のお菓子屋さんで、これと同じ味のキャンディーを買って貰ったのを思い出した。
確かあれは棒つきではなくて、宝石を食べているみたいだと思いながら、小さな塊を口に丸ごと入れたっけ。
甘い塊をもう一舐めして、懐かしい記憶にディーナが目を細めた時……
パタパタっと、テーブルに鮮血が滴り落ちた。
「リアン!?」
驚愕にディーナが叫ぶと、リアンは赤く染まった手で鼻を押さえ、呻きながら顔を背けた。
「ごめ……っ、ディーナ……見て……つい……色々と……」
「えええっ!?」
一体、自分がキャンディーを舐めただけで、どうして彼が出血するはめになったのか、理解に苦しむが、とにかく急いでタオルと雑巾を取りに走る。
そして彼の頻繁な出血に備えるべく、昼食はホウレン草の炒めものにして、明日はレバーペーストのお使いも頼もうと、固く決意した。